社労士の「仕事がない」のは本当?「食えない」といわれる背景と対策を解説!
社労士の仕事がない、あるいは社労士の仕事がなくなるといった、ウソか本当かわからないウワサが一部でささやかれています。たしかに、経済の構造が大きく変化し、技術が著しく進歩した現代では、大企業であっても時代の波にあらがえないことも少なくありません。しかし、国家資格を保有する人事労務のスペシャリスト、社会保険労務士の仕事がないなどということがあり得るのでしょうか?そんな疑問に応えるべく本記事では、社労士が食えない職業だといわれる背景、それに対する実態をもとに、本当に社労士の仕事がないのか?を検証して解説!これからの時代を社労士が生き残っていくための対策も紹介します。
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社労士の「仕事がない」?その実態は?
社労士の仕事がないというウワサの根拠は、社労士を職業にしていたのでは生活していけない、イコール「食えない」職業だということのようです。では、実際に社労士は生活していくのが難しいくらい稼げていないのか?収入面からの実態を見てみましょう。
社会保険労務士の平均年収
厚生労働省が発表した2018年度「賃金構造基本統計調査」によると、社会保険労務士の平均年収は「499.7万円」とされています。同じ年度の全体平均年収が「497.2万円」であることを考えれば、社労士の年収は日本の就労者全体の平均とほぼイコールであることがわかります。
意外と少ないと感じた方も多いかもしれません。これは、厚生労働省による調査が「10名以上の事業所」を対象にしていることが関係しています。499.7万円という金額は、10名以上の社労士事務所に雇用される、またはは一般企業に雇用される社労士全体の平均年収だと考えられます。
開業社労士の平均年収
開業社労士として独立した社労士の年収はどのくらいなのか?こちらは明確な統計がありませんが、一説では開業社労士の平均年収は約670万円程度だといわれています。上位10%程度の社労士は、年収1,000万円を超えるともいわれており、全体平均と比べても高収入だといえます。
つまり、社労士事務所や一般企業に雇用されるケースでも、独立開業するケースでも、全体平均より高い収入の得られる社労士は、食える職業である、イコール「仕事がない」とはいえないということになります。
社労士報酬には相場がある
社労士の収入をチェックしていくとわかる特徴のひとつに、男女間の収入差が少ないということも挙げられます。これは女性社労士の平均年収が約460万円であるのに対し、女性就労者全体の平均年収が約380万円であることからも明白です。
男女間の収入差が少ないという社労士の特徴は、報酬相場が安定しているからだと考えられます。
これは過去に「社会保険労務士報酬基準」で、社労士の報酬が定められていたためであり、2003年に報酬が自由化されたあとも、多くの社労士がこの基準を報酬の目安にしているからです。以下に、報酬基準の一例を挙げておきます。
社労士業務 | 報酬 |
---|---|
人事・労務相談 | 50,000円 |
就業規則作成 | 200,000円 |
健保・労災給付請求 | 30,000円 |
顧問契約(4名以下) | 20,000円 / 月 |
顧問契約(70〜99名以下) | 100,000円 / 月 |
社労士の業務・働き方をおさらい
平均年収、報酬体系の解説をしたところで、社労士の業務・働き方をおさらいしておきましょう。ご存知のように、社労士は社会・労働保健、人事・労務のスペシャリストですが、社会保険労務士を名乗るためには、国家試験に合格したうえで、社労士登録、社労士会への入会が必要です。
社労士の1号・2号・3号業務
社労士の業務は、社会保険労務士法第2条の1号・2号・3号に内容が明記されています。
1号業務(手続き代行) | 労働・社会保険に関する法令にもとづいた申請書等の作成、提出手続きの代行、申請書作成に関わる相談など |
---|---|
2号業務(帳簿作成) | 労働・社会保険に関する法令にもとづいた帳簿書類の作成など |
3号業務(相談業務) | 人事労務に関する相談、指導、アドバイスなど |
このうち、社労士の独占業務とされているのが「1号業務」「2号業務」です。各種年金の手続きなど、個人向けの業務も含まれますが、社労士の独占業務で多くを占めるのは法人向けの各種保健手続き代行業務だといえるでしょう。
また、特別研修の受講と専門試験の合格を条件に、特定社会保険労務士として登録を済ませると、個別労働関係紛争のあっせん手続き代理、裁判外紛争解決手続きの当事者代理や、和解交渉・和解契約の締結代理などの独占業務も行えるようになります。
開業社労士(開業登録)
上述したように、社会保険労務士を名乗るためには「登録」が必要ですが、社労士登録には大きく2種類があり、必然的に、社労士の働き方も大きく2種類に分類されます。そのうちのひとつが、独立開業社労士としての働き方を選ぶ方が登録する「開業登録」です。
これは個人事務所を設立する場合でも、従業員を雇用する社労士事務所を立ち上げる場合でも必要な登です。社労士法人の法人社員になるケースであっても、社労士個人の開業登録が必要ですが、依頼があれば顧客と自由に契約できることが開業登録の特徴です。
勤務社労士(勤務登録)
開業登録とは異なり、社労士事務所に雇用されて業務に従事する、あるいは一般企業に雇用されて業務に従事する勤務社労士の方が登録するのが「勤務登録」です。
一般的には、勤務先を指定して登録される場合がほとんどですが、開業社労士とのもっとも大きな違いは、勤務先以外の仕事を請け負えないことです。
勤務先からの安定した収入は見込めますが、仕事を獲得した分だけ収入増が見込める開業社労士のようにはいかない一面があります。それは開業社労士の平均年収が、厚生労働省調べのそれを上回っていることからもわかります。
社労士の「仕事がない」といわれる背景
もちろん、うまく軌道に乗れば開業社労士は高収入を見込めるかもしれませんが、仕事を獲得できなければ勤務社労士に収入がおよばないというリスクもあります。
意外に、社労士の仕事がないというウワサは、クライアントの獲得に苦戦している開業社労士の窮状に、尾ひれが付いて広まったものなのかもしれません。
しかし、冒頭でも触れたように、少子高齢化の進む日本では、経済構造が大きく変化しているうえ、それを補うかのように技術も格段の進歩を遂げています。こうした状況を踏まえ、社労士の仕事自体が減っていくのではないか?と懸念する声があるのも事実です。
特に影響が大きいと見られるのは開業社労士ですが、実際、どのようなことが懸念事項になっているのか?社労士の仕事がないといわれる背景・要因を挙げてみましょう。
登録社労士が飽和している?
まずは、仕事量に対して社労士の数が多すぎるのではないか?つまり、社労士が飽和状態にあるため、相対的に一人あたりの仕事が減るのではないかという懸念です。
年に1回の難関国家試験とはいえ、毎年500〜1,000名程度が社労士資格を取得している現状を考えれば、少子高齢化が進む日本で充分な仕事が得られるのか?懸念する声が上がるのもわかります。
2020年7月時点で、社労士会に登録する会員数は開業が24,327人、法人社員が2,833人、勤務等が15,967人の合計43,127人。このうちの約1/4に相当する約1万人が東京会に所属するなど、東京一極集中が進んでいるのも、社労士の飽和による「仕事がない」の根拠となっていると思われます。
社労士業務がAIに取って代わられる?
次に挙げられるのは、IT / ICTがさらなる進化を遂げることにより、書類作成・手続き代行・帳簿作成といった社労士の独占業務が、AIなどに代替されてしまうのではないか?という懸念です。
具体的には、各種の事務作業・手続きなどをシステムで自動化できれば、わざわざ社労士に仕事を依頼する必要がなくなる状況を招くのではないか?と予測する声が大きいのです。
こうした懸念は、社労士だけではなく事務作業、単純作業に関わる仕事すべてにいえることであり、AIの活用を含むシステム化・自動化による産業構造の変化は避けられません。
それほど遠くない未来に、社労士の独占業務である1号・2号業務に関連する「仕事がない」状態に近くなるのは確実だといえるでしょう。
マイナンバー制度で社労士業務が消滅する?
マイナンバー制度が導入されたことにより、社労士への法人需要が増えたという見方もありますが、逆に、マイナンバー制度の整備が進むにつれて社労士業務が消滅する、つまり社労士の仕事がなくなるのではないかと懸念する声もあります。
実際、マイナンバーは「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」による個人の識別番号であり、社会保障・税番号制度ともいわれます。
つまり、マイナンバーの整備・運用が本格化することにより、個人に紐付けられた社会保障・税金の手続き・申請の簡略化が予想され、結果的に社会保険・労働保健・年金に関連する社労士の仕事が消滅するというわけです。
現時点では効率的に運用されているとはいいがたいマイナンバー制度ですが、将来的な整備・運用の本格化は必須です。
知名度が低い社労士は法人の仕事がない?
士業に詳しい方はともかく、社会保険労務士の知名度は、弁護士や税理士に比べれば低いといわざるを得ません。
これは、法人として企業を運営していくうえで、税理士や弁護士への業務依頼は検討するが、そもそも知名度の低い社労士への業務依頼は検討しにくい、つまり法人向けの「社労士の仕事がない」のではないかという懸念です。
実際、どのくらいの数の企業に社労士が関与しているのか?を示す「社労士関与率」は、一昔前までは「3割程度」だという認識が一般的でした。
これは、税務会計面から継続的に携わることの多い税理士に対し、社会・労働保険関連の手続き中心という、スポットで携わることの多い社労士という特性の違いもあるのかもしれません。
社労士の将来性が有望である理由とは?
社労士の仕事がないといわれる背景、社労士にとってネガティブな一面を紹介してきました。ある意味でこれらの要素は正論でもあり、正しいともいえますが、それを含めて考えても、社労士の将来性が有望であるのは間違いありません。
なぜなら、社労士の仕事がない、あるいは仕事がなくなるのではなく、時代の変化に伴って社労士に求められる仕事が変化してきているだけだといえるからです。簡単に解説していきましょう。
社労士への需要の高まり
働き方改革が着々と進められ、コンプライアンスがなによりも重視される現代では、社労士への法人需要が高まる傾向にあり、今後もこの流れは継続するものと見られています。
これはワークライフバランスをはじめとした人事・労務管理面、就業規則の改訂などに、社労士が欠かせない存在だからです。
2015年から50名以上の事業者に義務付けられたストレスチェック、2020年以降の感染症対策に伴ったリモートワーク対策、各種助成金申請など、社労士の存在感を高めるキッカケとなった動きも多数ありました。
個別の労使紛争が増加する傾向もあるため、これらの仲裁・あっせんなどに特定社労士を活用したいというニーズも増えています。
社労士の飽和状態という懸念はあるものの、増加率はせいぜい年間で1〜2%。東京への社労士一極集中に関しても、ビジネスの東京一極集中状態を考えれば問題になりません。今後も社労士の増加を上回る需要が期待できる状況にあるといえるでしょう。
人事労務コンサルティングはAIで代替できない
技術の進化や制度の整備に代表されるように、書類作成・手続き代行といった事務業務を効率化しようという大きな流れは止められません。少子高齢化が進む日本では特に喫緊の課題でもあり、影響は社労士にも及びます。具体的には社労士の独占業務である1号・2号業務の減少です。
ただし、上述した法人需要拡大を見てもおわかりのように、社労士への法人ニーズは、労務管理をはじめとした人事労務コンサルティングにシフトしつつあります。社労士の専門である「人」に関わるコンサルティングは、AIなどでは代替できません。
つまり、今後も人事労務コンサルティングへの企業ニーズが高まると見られるなか、社労士の重要性・将来性も高まっているのです。
企業の社労士関与率は新参入の余地あり
社労士への法人需要の高まり、人事労務管理への高まりは、すでに裏付けるのに充分な数字として表れています。一昔前は3割が当たり前だと認識されていた社労士の企業関与率が、近年では6割程度まで高まっているのです。
これを「もう6割」と取るのか「まだ6割」と取るのかで感じ方は異なりますが、280万社といわれる中小企業の4割にあたる「112万社がまだ社労士と関与していない」という計算が成り立つのも事実です。
43,000人といわれる登録社労士の数を考えれば、まだまだ新規開拓・新規参入の余地は充分にあるといえるでしょう。
「仕事がない」のは実力のない社労士
ここまでで、ネガティブ面を差し引いても、社労士の将来性は有望であることを紹介しました。しかし、1号・2号業務を中心とした手続き・事務業務が減少していくことは間違いなく、社労士に限らずどのような職種であっても、クライアントの獲得は年々難しくなりつつあります。
つまり、将来性が有望だとはいえ、1号・2号業務を頼りにしている、なかなかクライアントを獲得できないといった実力のない開業社労士は「仕事がない」状況に陥ってしまう、イコール淘汰されてしまう可能性もあります。国家資格の保有者である社労士といえど、独占業務にあぐらをかいていられる状況ではないのです。
仕事の取れる社労士になるポイント・対策
それでは、これからの時代を生き残っていける、仕事の取れる開業社労士になるには、どのような対策を講じればいいのか?ポイントとなるのは、3号業務、そして営業力の強化です。ヒントとなるいくつかの要素を、以下から簡単に紹介していきましょう。
ほかの社労士との差別化
上述したように、社労士に対する法人需要は労務管理をはじめとした人事労務コンサルティングにシフトしつつあります。
つまり、3号業務である人事労務コンサルティングを通じ、社労士として法人のどのようなニーズに貢献していけるのか?明確にし、ほかの社労士との差別化を図っていく必要があります。
なぜなら、知名度の低い社労士に対する一般的な認識は「社会・労働保健の手続き代行以外になにをしてくれるのかわからない」「どの社労士に依頼しても同じでは?」といったものだからです。
依頼されればなんでもやりますという姿勢ではなく、社労士としての得意分野を明示し、クライアントにどのような価値を提供できるのかを、ホームページなどでしっかりアピールしていくことが重要です。
インバウンドマーケティング
社労士といえば、足で稼ぐ、紹介などのリファラルで稼ぐなどが、クライアント獲得の常套手段です。しかし、情報収集の手段としてインターネットが筆頭に挙げられる現代では、社労士の法人営業であってもインバウンドマーケティングが必須です。
具体的には、ホームページの開設、ブログの活用は必須であり、余裕があればSNSを活用していくのも効果的です。特に、自社の課題が社労士と結びついていないなど、解決法が具体化していない潜在的なニーズを抱える法人向けにブログの活用は最適です。
法人が抱えがちな課題に寄り添い、どのようにして解決に導いていくべきなのか?有益な情報をブログで発信して共感を得られれば、問い合わせという結果に結びつく可能性が高まります。ほかとの差別化を図る意味でも、社労士としての考え、姿勢を発信できるブログは有効です。
他社メディアの活用も有効
社労士を探すクライアントの側から見れば、ホームページを見ただけでは「どの社労士に依頼するのがベストなのか?」判断しにくいのも事実です。業務内容が多岐に渡る社労士のホームページは、詳しくない人から見れば「非常にわかりにくい」からです。
こうした顧客層にアプローチするには、インバウンドマーケティングを展開しながら、比較サイトなどのマッチングサービスを活用するのも有効。発注確度の高いクライアントを獲得するための選択肢を増やせるでしょう。
社労士にも経営・営業の視点が必要不可欠
本記事では、社労士が食えない職業だといわれる背景、それに対する実態をもとに、本当に社労士の仕事がないのか?を検証して解説してきました。仕事がないどころか、法人需要の高まる社労士は、将来有望ともいえる職業だ、ということが理解できたのではないでしょうか?
しかし、社労士へのニーズ・役割が時代とともに変化してきているのも事実であり、サービス業でもある社労士は、これからの時代に適合するためにも経営・営業の視点が必要不可欠になりつつあります。社労士として、自身の価値を高める努力を怠らないのはもちろん、クライアントを獲得するための、あらゆる営業努力を惜しまないことが重要です。
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