同一労働同一賃金ガイドラインに沿った定年再雇用者の待遇とは?判例も紹介

最終更新日:2023年10月02日
マネーライフワークス
監修者
岡崎 壮史
同一労働同一賃金ガイドラインに沿った定年再雇用者の待遇とは?判例も紹介
この記事で解決できるお悩み
  • 同一労働同一賃金ガイドラインは定年再雇用の従業員にも適用される?
  • そもそも同一労働同一賃金とは?待遇差は一切認められない?
  • 同一労働同一賃金ガイドラインに沿った定年再雇用制度はどう整備する?

少子高齢化の影響で労働人口が縮小する傾向にあるなか、高スキルを持つ経験豊かな高齢者を定年再雇用していこうという動きが強まっています。しかし、同一労働同一賃金が法制化された現在、多くの経営者・人事担当者の方が気にしているのが、定年再雇用した従業員の待遇面ではないでしょうか?

今後、ますます避けては通れない課題にどう対処していけばいいのか?そんな悩みを抱える方は少なくないはずです。そこで本記事では、同一労働同一賃金ガイドラインの概要をおさらいするとともに、定年再雇用との関係性、ガイドラインに沿った待遇をどうすべきかを徹底解説!定年再雇用者の待遇差を焦点にした判例も紹介していきます。

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従業員の定年再雇用は増える?

定年を迎えた従業員を嘱託として再雇用することは、以前から多くの企業で実施されてきましたが、今後はより一層、その流れが加速していくとみられています。

これは、上述した労働人口減少にともなう人材不足という面もありますが、高齢者の活用を促進すべく、法改正が進められているからにほかなりません。それが2021年4月1日から施行された「高年齢者雇用安定法改正」です。

改正された高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法とは、定年の規制・高年齢者の雇用安定を図るための法律として1986年に制定された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」のこと。60歳未満の定年禁止、定年を65歳未満に定めている事業者に、

  • 65歳までの定年引上げ
  • 定年制の廃止
  • 再雇用など65歳までの継続雇用制度の整備

の努力義務を求めるものでした。今回の「高年齢者雇用安定法改正」におけるトピックは、65歳に定められていた各種努力義務が「義務化」されたこと、さらに「70歳」までの努力義務が追加されたことです。

これは、一億層活躍社会を掲げる働き方改革の柱でもある「高齢者の就労促進」を具体化した法律だともいえるでしょう。

「高年齢者雇用安定法改正の概要」

出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」

また、努力義務の項目に、

  • 継続的に業務委託契約を締結する制度
  • 事業主の社会貢献事業に継続的に従事できる制度

が加えられたことも法改正の特徴です。新たに加えられた高年齢者の就業確保措置のことは「創業支援等措置」と呼ばれます。

定年再雇用の雇用形態

高年齢者雇用安定法改正によって、定年再雇用の雇用形態は、これまでの「嘱託社員」「短時間労働者」などのほかに、創業支援等措置による「業務委託契約」が加わったことになります。

もうひとつの創業支援等措置である「事業主の社会貢献事業に継続的に従事できる制度」における「社会貢献事業」とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のこと。この社会貢献事業は、事業主が自ら実施する、もしくは委託・出資する団体である必要があります。

同一労働同一賃金ガイドラインとは

高齢者の就労促進を目的とする高年齢者雇用安定法改正によって、定年再雇用の機会はますます多くなることが確実でしょう。

それでは、高齢者の就労促進と同様、働き方改革の柱「正規社員と非正規社員の格差是正」を具現化した「同一労働同一賃金」は、どのように関連するのでしょうか?まずは、同一労働同一賃金ガイドラインの概要をおさらいしておきましょう。

  • 同一労働同一賃金ガイドライン

    雇用形態にかかわらない均等・均衡な待遇を確保するための法律「パートタイム・有期雇用労働法」の実現に向け、どのような待遇差が不合理なものなのか、あるいはそうでないかを示したガイドラインのこと。

  • パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金制度)

    短時間労働者への不合理な待遇差を禁じた「パートタイム労働法」、有期雇用労働者を対象にした「労働契約法第20条」が統合される形で2021年より施行され、ガイドラインでは「不合理な待遇の禁止」として4つの指針が示されています。

不合理な待遇の禁止:基本給

基本給 能力・経験・業績・成果・勤続年数など労働の趣旨・性格に照らし合わせ、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給が必要
昇給 勤続による労働者の能力向上に応じたものならば、同一の能力向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給が必要

不合理な待遇の禁止:賞与

会社の業績に連動する賞与(ボーナス)など、労働者の貢献度に応じて支給するものについては、同一の貢献であれば同一の、違いがあれば違いに応じて支給しなければなりません。

不合理な待遇の禁止:各種手当

役職手当など、役職の内容に応じて支給するものについては、同一の内容の役職については同一の、違いがあれば違いに応じて支給しなければなりません。また、条件が同一であれば同一に支給しなければならない手当としては、

  • 特殊作業手当
  • 特殊勤務手当
  • 精皆勤手当
  • 時間外労働手当の割増率
  • 深夜・休日労働手当の割増率
  • 通勤手当・出張旅費
  • 食事手当
  • 単身赴任手当
  • 地域手当

なども挙げられています。

不合理な待遇の禁止:福利厚生・教育訓練

福利厚生・教育訓練についても、労働条件が同一であれば同一の待遇を、違いがあれば違いに応じた待遇を整備しなければなりません。具体的に挙げられている待遇面は以下の通りです。

  • 食堂・休憩室・更衣室などの福利厚生施設の利用
  • 転勤要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断にともなう勤務免除・有給保証
  • 病気休職(無期雇用の短時間労働者は正社員と同一、有期雇用労働者は期間を踏まえたうえで正社員と同一の付与)
  • 法定外の有給休暇・その他の休暇(同一の勤続期間であれば同一の付与)
  • 教育訓練

出典:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

同一労働同一賃金ガイドラインと定年再雇用の関係

ここまでの概要解説でもお分かりのように、同一労働同一賃金ガイドラインでは、「雇用形態にかかわらず」不合理のない均等・均衡な待遇確保を求めていることがわかります。

当然、同一労働同一賃金ガイドラインで示されている指標は、定年再雇用者の待遇にも当てはめて考えなければなりません。

待遇差が不合理だと考えられるケース

それでは、同一労働同一賃金ガイドラインと照らし合わせた場合、定年再雇用者の待遇が不合理だと考えられるのは、どのようなケースなのでしょうか?

定年再雇用制度を設けているほとんどの企業は、契約内容・労働条件を見直したうえで、定年前よりも低い給与水準で再雇用する場合が一般的です。

しかし、定年再雇用後の労働条件・業務内容が客観的に見て正社員と同一であるなら、給与を含めた待遇差は、同一労働同一賃金ガイドラインからみて不合理だと考えられます。正社員との待遇差があるのなら、再雇用者の労働条件・業務内容が待遇差となる合理的な理由が必要になるでしょう。

また、再雇用後の労働条件・業務内容が定年前と変更がないにもかかわらず給与水準が低くなったなどの待遇差があれば、これも同一労働同一賃金ガイドラインからみて不合理だと考えられます。

たとえば業務内容や責任が変わらないのに基本給が減額された、従来支給されていた手当がカットされた、などが不合理な待遇差に当てはまる可能性があります。

再雇用後の待遇格差を焦点とした判例:長澤運輸事件

ただし、従来から不合理な待遇格差を禁じる法律はあったものの、同一労働同一賃金制度が法制化されてから間もないことも事実。再雇用におけるどのような待遇差が合法なのか?違法なのか?参考にできる具体的な法的判断は多くありませんが、代表的な判例を2つ紹介しておきましょう。

まずは、定年後に有期雇用の嘱託社員として再雇用された3名が原告となり、無期雇用の正社員との賃金格差を不服として訴えを起こした長澤運輸事件です。

具体的には、業務内容や責任が同一であるにかかわらず、基本給が在籍給と年齢給の合計である正社員と、基本賃金に歩合給を合計した嘱託社員に待遇差があること、嘱託社員に「能率給」「職務給」「役付手当」「精勤手当」「住宅手当」「家族手当」「超勤手当」がないことが不当としたものです。

最高裁判所の判決

最高裁まで争われた長澤運輸事件は、原告が全面的に勝利した一審判決、被告が全面勝利した控訴審で判断が分かれたことが特徴。注目された最高裁での判決も一審・控訴審とは異なる内容となりました。

そもそも原告側の主張は、賃金の総額が正社員と比べて平均21%程度低いことを不当としたもの。しかし、最高裁の判決では、定年再雇用された原告側の待遇差を労働契約法20条の「その他の事情」として考慮されるべきであるとし、「精勤手当」「超過手当」のみ不合理な待遇差があると認めるにとどまりました。

不合理の判断は各賃金項目を個別に考慮

最終的な決定ともいえる最高裁の判例が、定年再雇用者の待遇差・同一労働同一賃金に関する影響としては、定年再雇用者の不合理な待遇差は「個々の労働条件ごとに判断される」、賃金総額ではなく「各賃金項目ごとに個別に判断される」という認識を世間に与えたことだといえるでしょう。

不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法20条では、不合理かどうかの判断方法を、

  1. 職務の内容(業務内容と責任の程度)
  2. 職務内容・配置の変更の範囲
  3. その他の事情

としています。定年再雇用の場合、定年前後で,よび△変更されることが一般的であり、待遇差があっても特段の理由がない限りに当たると判断された形です。

参照元:厚生労働省「不合理な労働条件の禁止(第20条)」

再雇用後の待遇格差を焦点とした判例:名古屋自動車学校事件

次に紹介する判例は、定年後に有期雇用の契約社員として再雇用された2名が原告となり、無期雇用の正社員との賃金格差を不服として訴えを起こした名古屋自動車学校事件です。

具体的には、業務内容や責任が同一であるにかかわらず、正社員との間に「基本給」「精励手当」「家族手当」「賞与」などの待遇差があることを不当としたもの。基本的には、長澤運輸事件と争点の同じ裁判だといってもいいでしょう。

名古屋地方裁判所の判決

名古屋自動車学校事件は、2020年10月に名古屋地方裁判所で判決が下されたばかりのため、今後の推移を見守る必要がありますが、長澤運輸事件における最高裁の判断とは若干異なる判決となったことが注目ポイントです。

定年再雇用が労働契約法20上の「その他の事情」に当てはまるという点では長澤運輸事件と同様ですが、再雇用後に48.8%を下回る水準であった基本給の待遇差は、退職時の60%を下回る限度で不合理である認められました。賞与についても同様の判断が下されたものの、長澤運輸事件と同様、家族手当に関しては不合理とはいえないと判断されています。

基本給の待遇差も違法になる可能性がある

まだまだ予断を許さない状況ではあるものの、名古屋地方裁判所の判例が、定年再雇用者の待遇差・同一労働同一賃金に関する影響としては、再雇用社員と正社員の基本給待遇差も違法になる可能性があると示したことだといえるでしょう。

また、退職時の60%を下回る限度で基本給待遇差が不合理であると認められた背景にある「労働者の生活保障の観点」も見逃せません。名古屋地方裁判所が示した「60%」という基準は、定年再雇用制度を採用する企業の、同一労働同一賃金確保に大きな影響を与える可能性があります。

同一労働同一賃金ガイドラインに沿った再雇用者の待遇とは?

それでは、数少ない判例も鑑みながら、同一労働同一賃金ガイドラインに沿った定年再雇用者の待遇を定めるには、どうしたらいいのでしょうか?

ポイントのひとつとしては、労働契約法20条の「その他の事情」に当てはまると考えられる定年再雇用の場合、再雇用後の「職務の内容」「職務内容・配置の変更の範囲」を明確にしておくことが挙げられます。もちろん、勤務状況は実態で判断されることになるため、職務内容をチェックするなど、管理職の責務も重要になります。

もうひとつのポイントとしては、定年再雇用で給与水準を引き下げるのであれば「職務の内容から給与額を合理的に説明できる理由」および「労働者の生活保障の観点」を考慮することが挙げられます。名古屋地方裁判所の判例である「60%を下回る限度」は、定年再雇用者の給与待遇を決定する際の基準となるでしょう。

雇用形態ごとの社内制度を整備する

そのためには、定年再雇用で考えられる雇用形態「嘱託社員契約」「短時間労働者契約」「業務委託契約」それぞれの社内制度を整備していくことが重要になります。

また、定年再雇用の社内制度を整備する際に気をつけておきたいポイントとして、判例でも示されている各種手当も挙げられます。

再雇用者に手当を支給しないのであれば合理的な理由が必要であり、理由が説明できない手当であれば、再雇用者にも支給しなければならないからです。定年再雇用制度を整備する際は、正社員に支給している手当も含めて「整理統合」する必要があるかもしれません。

再雇用までのスケジュールを決めておく

定年を迎える従業員すべてが再雇用を望むとは限りません。しかし、従業員が受け入れられない条件を提示して退職せざるを得ない状況になると、高年齢者雇用安定法に抵触する形になります。

こうしたトラブルを防ぎ、お互いが納得できる状況を作るためにも、定年を迎える従業員が再雇用に至るまでのスケジュールを決めておくことが重要です。

たとえば、定年の1年前から再雇用の意思を確認する、それを踏まえたうえで、3か月前までに複数のオファーを用意するなどです。定年再雇用制度が整備できていれば、従業員のスキルや貢献度も加味しながら、適切なスケジュールで最適なオファーを提示できるでしょう。

まとめ

今後避けては通れない、定年再雇用の課題にどう対処していけばいいのか?そんな悩みを抱える経営者・人事担当者の方に向け、本記事では、同一労働同一賃金ガイドラインの概要をおさらいするとともに、定年再雇用と同一労働同一賃金の関係性、ガイドラインに沿った社内制度のポイント、参考になる判例などを解説してきました。

同一労働同一賃金制度は、定年再雇用者にも適用されることは間違いありませんが、高年齢者雇用安定法にも関わる問題でもあるため、社内制度を整備することは簡単ではないでしょう。まだまだ参考になる判例も少ないなか、会社と労働者がWin-Winの関係性を築くためには、労務・人事のスペシャリストである社会保険労務士を頼るのもおすすめです。

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監修者の一言

同一労働同一賃金は、「パートタイム・有期労働法8条・9条」において、パートや有期雇用と正社員という「雇用形態」が異なることを理由として、給与や手当などの待遇面について差を設けることを禁止するという規定です。

この規定は、パートや有期雇用と正社員といった一般の雇用のついてだけでなく、高年齢の再雇用においても同様の規定が適用されるということに注意が必要です。

同一労働同一賃金ガイドラインでは、基本給・賞与や昇給、各種手当といった部分における待遇面について、正当な理由なく差を設けることを禁止することを趣旨としているため、ガイドラインの内容をしっかりと確認したうえで、社内の雇用制度についての規定を整備することが求められています。

また、裁判においても、待遇面について「項目ごと」に違法であるかの判断が行われているため、それぞれの雇用形態ごとの内容における制度の違いについて、従業員に対しても周知させることも併せて必要なことといえます。

マネーライフワークス
岡崎 壮史
監修者

1980年3月23日生まれ。社会保険労務士・1級FP技能士・CFP認定者。令和3年度 中小企業・小規模事業者等に対する働き方改革推進支援事業(専門家派遣事業) 派遣専門家。大学卒業後、外資系生命保険会社の営業、資格の専門学校の簿記・FPの講師、不動産会社の経営企画を経て現在に至る。

比較ビズ編集部
執筆者
比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。
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