給与所得者の特定支出控除とは?必要な証明書や会社側の対応をわかりやすく解説

青木征爾税理士事務所
監修者
青木征爾税理士事務所 税理士 青木征爾
最終更新日:2023年11月17日
給与所得者の特定支出控除とは?必要な証明書や会社側の対応をわかりやすく解説
この記事で解決できるお悩み
  • 特定支出控除とは?
  • 特定支出控除の範囲は?
  • 特定支出控除額の計算方法や手続きの手順は?

「特定支出控除とは?」とお悩みの経理担当者、必見です。特定支出控除とは、従業員が業務にかかった費用を経費として申請し、控除を受けられる制度です。

この記事では、特定支出控除の概要や範囲、手続きの手順を解説します。最後まで読むことで、従業員が申請した際に会社として適切に対応できるでしょう。

特定支出控除への理解を深めたい社内担当者の方はぜひ参考にしてください。

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給与所得者の特定支出控除とは

特定支出控除とは、年間を通して支払った「特定支出」に適用される控除制度です。特定支出の合計額が「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を越えた場合、超過金額を給与所得控除後の所得金額から差し引けます。

確定申告を適切に行い、特定支出控除の適用を受ければ、所得税の還付が受けられます。

特定支出控除の適用条件

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特定支出控除は給与所得者の経費(実費)すべてに該当するわけではありません。支出した費用のなかで「特定支出」と認められる部分のみが控除対象です。

平成24年の税制改正により、特定支出控除の適用条件が「当人の所得控除額の2分の1を超えた支出費用」に変更されました。特定支出控除の考え方は、次の図から理解できます。

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出典:国税庁「令和2年分以降の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)」

特定支出控除の範囲

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特定支出控除の対象となる「特定支出」には、以下の費用が含まれます。

  1. 通勤費
  2. 職務上の旅費
  3. 転居費
  4. 研修費
  5. 資格取得費
  6. 帰宅旅費
  7. 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)

上記に該当していても、企業や教育訓練給付金から一部補填されている場合、補填金額の部分は特定支出に含まれません。

特定支出1:通勤費

会社に通勤するために支払った費用のうち、会社から支給されない通勤費は特定支出と認められます。主に次の費用が挙げられます。

  • 電車や新幹線を利用して通勤するための交通費
  • 車通勤のためのガソリン代
  • 高速料金
  • 車の修理代

航空機での通勤は認められません。グリーン車やグレードアップなどの「特別な設備」は除外されるため注意しましょう。いずれの場合も、会社から「もっとも経済的かつ合理的な通勤ルート」と認められる必要があります。

特定支出2:職務上の旅費

出張のための職務上の旅費は、特定支出として認められます。勤務地から離れた場所に移動する際にかかる費用が該当し、主に次の4つが対象です。

  • 運賃
  • ガソリン代
  • 高速料金
  • 自動車の修理代

実費を経費扱いで会社が全額負担したケースでは、特定支出に該当しません。一律で出張費が決まっている場合は、補填されない分の金額を申請できます。

通勤費と同様、会社から「もっとも経済的かつ合理的な移動ルート」であると認められていることが条件です。

特定支出3:転居費

転勤にともなって支出した当人・配偶者・親族にかかる費用は、転居費として特定支出に該当します。主な転居費の例は、次のとおりです。

  • 交通機関の運賃
  • ガソリン代
  • 有料道路の料金
  • 宿泊費
  • 引越しの運送費
  • 運送中の損害保険料

申請には、会社から必要な転居であると証明される必要があります。申請期限は、転勤が決定した日から数えて1年以内です。引越しにともなう部屋の模様替えや家具購入費用は「転居のための支出」ではないため、特定支出には含まれません。

特定支出4:研修費

会社での職務遂行のための研修費は、特定支出に該当します。特定支出控除を受けるためには、職務に直接的に必要な技術・知識を習得することを目的とした研修でなければなりません。

研修は、第三者からの訓練や講習によって技術や知識を習得する、受動的な行為を指します。資格を取得する目的の訓練・講習は含まれません。

申請のためには、技術・知識の習得に必要な研修であると会社から証明される必要があります。受講のための交通費も特定支出の対象となりますが、条件を満たし正当性が認められる場合に限ります。

特定支出5:資格取得費

会社での職務遂行に直接的に必要な資格を取得するための費用は、特定支出に該当します。技術や知識を習得する目的の「研修費」と、資格の取得を目的とする「資格取得費」では、特定支出のカテゴリーが異なるため注意しましょう。

資格取得が必要と会社から証明される必要があります。結果的に資格取得に失敗しても、支払った費用は特定支出の対象です。

特定支出6:帰宅旅費

単身赴任で、配偶者や生計をともにする家族と離れて暮らしている場合、帰宅のための旅費が特定支出に該当します。自宅に帰るための交通機関運賃、自動車での移動にかかる費用が対象です。

帰宅旅費の定義は「当人が勤務する場所」を起点とします。たとえば東京に家族が居住し、当人が福岡で勤務していれば「福岡・東京間の交通費」が帰宅旅費にあたります。

特定支出7:勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)

図書費・衣服費・交際費など、当人の職務遂行に必要と会社から証明された費用は特定支出の対象です。最大65万円の範囲内に限り「勤務必要経費」名目で申請が認められます。

図書費 専門書や特定分野を扱う新聞・雑誌、職務遂行の参考になる図書が対象
衣服費 制服・事務服・作業服など、勤務場所での着用が必要な衣服が対象
交際費 給与支払者(勤務先)の得意先・仕入先など、職務上関係ある方に対する接待・贈答が対象

図書費・衣服費・交際費は勤務必要経費としてまとめて扱われます。費用ごとに特定支出の証明書が必要なため、購入品ごとに経費を管理しましょう。

特定支出控除額の計算方法

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特定支出控除額の計算方法は、次のとおりです。

収入金額−{給与所得控除額+(特定支出の合計金額−給与所得控除額の2分の1)}

給与所得控除額は該当する方の年収に応じ、以下の表に当てはめて計算します。

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1.625,001円から1,800,000円まで 収入金額×40%−100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6.600.001円から8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円

参照元:国税庁「No.1410 給与所得控除」

例:給与収入が500万円/特定支出が計100万円の場合

たとえば、給与収入が500万円の方であれば、給与所得控除額は144万円です。給与から控除額を引き、所得税の対象は「356万円」となります。

年間に支払った特定支出の合計金額が100万円の場合、給与所得は以下のように計算されます。

500万円−{144万円+(100万円−144万円×2分の1)}=328万円

特定支出控除の適用を受けることで、申請前の356万円に比べて28万円節税効果があります。

【従業員】確定申告における特定支出控除申請手続きの手順

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特定支出控除の申請を含めた確定申告の手順は、次の4ステップです。

  1. 特定支出控除申請に必要な書類を用意する
  2. 特定支出に関する証明書を作成・提出する
  3. 特定支出に関する明細書を作成する
  4. 確定申告書を作成して申告する

1. 特定支出控除申請に必要な書類を用意する

特定支出控除申請に必要な書類を用意します。必要書類は次のとおりです。

  • 特定支出に該当する費用を支払った証明となる領収書・レシートなど
  • 特定支出に関する証明書
  • 特定支出に関する明細書
  • 源泉徴収票
  • 確定申告書

支出を証明する領収書やレシートは、確実に管理しましょう。領収書やレシートは確定申告時に申告書に添付、あるいは提出時に提示する必要があるためです。

1,000円未満の公共交通機関の支払いは、レシートや領収書などが不要な費用であっても「金額」「利用した日付」「支払先」は記録する必要があります。

2. 特定支出に関する証明書を作成・提出する

領収書・レシートを参照し「特定支出に関する証明書」に必要事項を記入します。特定支出に関する証明書は、国税庁ホームページ「給与所得者の特定支出に関する証明書」からダウンロード可能です。

作成した証明書は、勤務先の会社に提出します。特定支出控除の適用を受けるためには、条件を満たしていると会社に証明される必要があるためです。確定申告の期間である該当年の翌年2月16日から3月15日に余裕をもって会社に提出しましょう。

3. 特定支出に関する明細書を作成する

会社から認められた証明書をもとに、特定支出の個別費用を「特定支出に関する明細書」に記入します。特定支出に関する明細書は、国税庁のホームページ「給与所得者の特定支出に関する明細書」からダウンロード可能です。

4. 確定申告書を作成して申告する

特定支出に関する証明書・申請書、および源泉徴収票を参照しながら「確定申告書」を作成します。完成したら、必要書類とともに税務署に提出しましょう。

特定支出控除を適用することで「所得額」が変更になるため、所得額に応じた所得税・復興特別所得税の再計算が必要です。納付済みの源泉徴収税との差額を「還付される税金」に記入します。

【会社】特定支出控除申請手続きの対応

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企業が特定支出控除申請手続きを従業員から申し込まれた場合、次の2つの対応が必要です。

  1. 社員から提出された証明書を確認する
  2. 源泉徴収や年末調整は通常どおり行う

1. 社員から提出された証明書を確認する

従業員から「特定支出に関する証明書」の提出を受けた場合、内容を確認します。申請された金額が確実に職務遂行のために用いられた費用に対応しているか、交通費であれば最短ルートであるかをチェックしましょう。

2. 源泉徴収や年末調整は通常どおり行う

特定支出控除の申し出があった場合でも、源泉徴収や年末調整は通常どおり実行します。申請者本人は年末調整のほかに確定申告をする必要がありますが、企業側は特別な処理は必要ありません。

確定申告には給与所得の源泉徴収票が必要です。企業は必ず申請者の年末調整をおこない、源泉徴収票を作成しましょう。

特定支出控除を受けるときの4つの注意点

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特定支出控除を受ける際の注意点は、次の4つです。

  1. 必要書類がすべて揃わなければ適用されない
  2. 電子書籍の閲覧用端末の購入費用は対象外となる
  3. テレワーク環境を整えるための費用は対象外となる
  4. 交通料金が15,000円以上の場合証明書の取得が必要になる

1. 必要書類がすべて揃わなければ適用されない

特定支出控除を受ける際は、すべての書類が手元に揃っていることを入念に確認しましょう。不足書類があると、申請が受理されない可能性があります。

明細書や領収書など、申請に必要な書類は紛失がないよう慎重な管理が必要です。企業から受けた証明書も提出が求められるため、作成にかかる時間を見越して準備を開始しましょう。

2. 電子書籍の閲覧用端末の購入費用は対象外となる

職務遂行のためでも、電子書籍の閲覧用端末の購入費用は対象外です。電子書籍を購入した場合は、図書費用と認められます。

電子書籍で必要な本を購入した場合の費用は特定支出に計上可能ですが、タブレットやキンドルの購入費用は対象になりません。

3. テレワーク環境を整えるための費用は対象外となる

コンピューターや携帯端末の購入費用は特定支出として認められません。テレワークの環境を整える目的で電子機器やデスク、椅子などを購入しても、特定支出の対象外とみなされます。

新しくテレワークを始める際は環境整備に費用がかかります。特定支出に該当しない費用でも企業で経費申請できる可能性があるため事前に確認しましょう。

4. 交通料金が15,000円以上の場合証明書の取得が必要になる

1つの交通機関の運賃・料金が15,000円以上になる場合、毎回「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」を取得する必要があります。

「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」の作成は、空港の航空会社カウンター、列車の車掌、降車駅の精算所などでおこないます。搭乗券とともに証明書を提示して記載してもらう必要があるため、移動時は事前に証明書を用意しましょう。

参照:国税庁「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」

まとめ:特定支出控除の準備は早めに

特定支出控除は納税者の処理だけではなく、勤務先の会社のチェックや証明が必要な手続きです。確定申告時期の間際に作業を始めると申請に間に合わない可能性があるため、余裕をもって作成を開始しましょう。

特定支出控除や確定申告に関して不明点があれば、税理士への相談がおすすめです。不安をすぐに解決でき、正しい申請方法を効率的に理解できます。

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監修者のコメント
青木征爾税理士事務所
税理士 青木征爾

札幌市を中心に活動する税理士。アパレル業界から未経験で税理士業界に飛び込む。その後、個人事務所、資産税系コンサルティングファームで経験を積み独立。税理士の仕事で重要なことはお客様とのコミュニケーションであるという考えから対話を重視している。中小企業の経営支援、スタートアップ支援、相続業務を得意としている。

特定支出控除は平成24年と平成28年に改正があり、控除額の拡大や要件の緩和がありましたが、まだまだ適用の要件は厳しいものとなっています。適用を受けるには2つの高いハードルがあります。

1つ目は手間がかかるという点です。業務のために使用したということをひとつひとつ証明しなければなりません。特に旅費や勤務必要経費については個人使用のものと明確に区別する必要があります。

2つ目は適用を受けるための金額要件が厳しいという点です。特定支出額が給与所得控除額の2分の1を超えなければ適用を受けることができません。給与収入が400万円の方であれば62万円、年収500万円の方であれば72万円と高額な特定支出が必要になります。

特定支出控除の適用を受けることができる方というのは限定されているかもしれません。適用を検討される方は特定支出に係る領収書や証明書の保存をもれなく行い、時間が経過してからでも業務のために使用したことがわかるように記録をしっかり残しましょう。
比較ビズ編集部
執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。

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