給与所得者の特定支出控除とは?証明書の書き方・手続きの進め方を解説!

最終更新日:2023年10月02日
青木征爾税理士事務所
監修者
税理士 青木征爾
給与所得者の特定支出控除とは?証明書の書き方・手続きの進め方を解説!
この記事で解決できるお悩み
  • 特定支出控除に必要な証明書の書き方とは?
  • 特定支出控除の種類は何があるの?
  • 特定支出控除額の計算方法や手続き方法はどうやるの?

業務のために使用した費用を経費として申請できるのが「特定支出控除」です。特に年間の支出額が大きい方なら、まさに特定支出控除の詳細を調べている段階かもしれません。

そこで本記事では、特定支出の定義・種類、必要な証明書や書き方、手続きの進め方や控除額の計算方法など、特定支出控除の基礎知識を解説していきます。正しく手続きを行い、控除を受けましょう。

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給与所得者の特定支出控除とは

特定支出控除とは、年間を通して支払った「特定支出」のうち、当人の給与所得控除額の1/2を超えた分の費用を給与収入から控除できる「所得控除制度」です。

適切な確定申告の手続きをし、特定支出控除の適用を受ければ、所得税を還付してもらうことができます。

  • 「特定支出控除」が導入された背景

    税負担の公平性が保たれないということで、過去に裁判に発展した事例がありました。「公平性が保たれる」という最高裁の判断により、給与所得者の経費計上が認められることはありませんでしたが、裁判をキッカケに「特定支出控除」という税制度が導入されたというわけです。

  • 給与所得者の所得税について

    給与所得者の所得税は、給与等の収入から「収入に応じた一定額の給与所得控除額」および扶養控除・生命保険料などが該当する「所得控除額」を差し引き、残った「所得」に対して課税されます。そもそも「給与所得控除」自体が給与所得者の経費として考えられているため、個人事業主のように「実費を経費計上する」という概念はありません。

特定支出控除の適用条件

もちろん、特定支出控除は給与所得者の経費(実費)を意味するものではないため、支出した費用すべてが控除額として認められるわけではありません。制度が設けられた当初は、「当人の所得控除額を超えた支出費用」が適用条件だったため、給与収入400万円の方であれば、1か月あたり12万円以上の支出がなければ特定支出控除を適用できず、利用者はほとんどいない状況でした。

こうした課題を解決するため、平成24年の税制改正で特定支出控除の適用条件が「当人の所得控除額の1/2を超えた支出費用」に変更され、現在にいたっています。特定支出控除制度の具体的なイメージは、以下の図の通り。

1 (1)

出典:国税庁「令和2年分以降の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)」

特定支出とは

特定支出控除の対象となる「特定支出」には、以下のような費用が含まれます。

  • 通勤費
  • 職務上の旅費
  • 転居費
  • 研修費
  • 資格取得費
  • 帰宅旅費
  • 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)

これらの費用を自分自身で全額支払っているのであれば、特定支出として認められる可能性がありますが、会社や教育訓練給付金などで一部補填されている場合、補填金額の部分は特定支出に含まれません。

特定支出に関する証明書・明細書

特定支出控除の適用を受けるためには、特定支出に関する「証明書」「明細書」が必要です。明細書は「いつ」「どのような目的で」「いくら」費用を使ったのか、特定支出の明細を記載する書類です。

特定支出に関する証明書とは

「いつ」「どのような目的で」「いくら」費用を使ったのか、仕事に関連するものなのか、費用として合理的なものなのかを、給与を支払う会社に証明してもらうための書類です。こちらの必要事項を記入し、会社に提出します。会社から証明をもらったら、確定申告まで保管しておいてください。

特定支出控除の適用を受けるには確定申告が必要

特定支出控除の適用を受け、所得税を還付してもらうためには、当然のことながら確定申告の手続きが必要です。

確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間で得られた収入から各種控除額を差し引き、所得税の対象となる「所得」を確定させる手続きのこと。給与所得者の方であれば、会社が「年末調整」してくれるため、確定申告したことがないという方も少なくないでしょう。

普段、縁のない給与所得者の方であっても、確定申告の基本を把握しておくことが重要です。

特定支出の種類・内容

上述したように、特定支出には「会社や教育訓練給付金などで一部補填されている場合、補填金額の部分は特定支出に含まれない」という原則がありますが、自分自身で全額支払えばすべて特定支出になるというわけではありません。

7つある特定支出の種類には、それぞれ定義や適用条件が定められているため、それぞれの内容を把握しておくことが重要。以下から、特定支出の種類ごとの内容を解説していきます。

特定支出1:通勤費

会社に通勤するために支払った費用のうち、会社から支給されない自費で支払った交通機関等の運賃分は、特定支出として認められます。

該当ケース1

交通費の支給範囲外の地域から新幹線で通勤するなどが当てはまるでしょう。この場合、特急券は特定支出に含まれます。

該当ケース2

交通機関ではなく、自家用車で通勤する場合も「ガソリン代」「高速料金」「自動車の修理代」などを特定支出に含められます。

  • 注意点1

    グリーン車などの「特別な設備」は除外されるほか、航空機での通勤も認められません。

  • 注意点2

    いずれの場合でも、会社から「もっとも経済的かつ合理的な通勤ルート」であると認めてもらう必要があります。

特定支出2:職務上の旅費

出張などで、勤務地から離れた場所に移動するのにかかる「運賃」「ガソリン代」「高速料金」「自動車の修理代」など(職務上の旅費)は、特定支出として認められます。一般的に、会社都合による出張などでは、実費を経費として会社が全額負担しますが、一律で出張費が決まっている場合などに利用できるかもしれません。

  • 注意点

    職務上の旅費に関しても、会社から「もっとも経済的かつ合理的な移動ルート」であると認めてもらう必要があるのは同様です。

特定支出3:転居費

転勤にともなって支出した当人・配偶者・親族に係る費用のうち、交通機関の運賃・ガソリン代・有料道路の料金・宿泊費・引越しの運送費などは、転居費としての特定支出に該当します。また、運送中の損害保険料も特定支出に含まれます。

  • 注意点1

    引越しにともなう部屋の模様替えなどにかかる費用は「転居のための支出ではない」ため、特定支出には含まれません。

  • 注意点2

    会社から必要な転居であると証明してもらう必要があるのはもちろん、転勤が決定した日から数えて1年以内の費用に限るという制限事項もあります。

特定支出4:研修費

会社での職務を遂行するにあたって、直接的に必要な技術・知識を習得することを目的とした研修の費用は、特定支出として認められます。

  • 注意点1

    この場合の研修の定義は、第三者からの訓練・講習によって技術・知識を習得する受動的な研修のこと。人の資格を取得する目的の訓練・講習は含まれません。

  • 注意点2

    前提として、技術・知識を習得するのに必要な研修だと会社から証明されることも必要です。受講のためにかかる交通費なども特定支出の対象となりますが、総合的な観点から必要性が判断される点には留意しましょう。

特定支出5:資格取得費

会社での職務を遂行するにあたって、直接的に必要な資格を取得することを目的にした費用も、特定支出として認められます。

  • 注意点1

    技術・知識を習得する目的の研修費と、資格の取得を目的とする資格取得費では、特定支出の種類が異なることに注意が必要。結果的に資格取得に失敗したとしても、支払った費用は特定支出として認められます。

  • 注意点2

    資格取得が必要だと会社から証明されること、総合的な観点から交通費の必要性が判断されることという点は研修費と同様です。

特定支出6:帰宅旅費

単身赴任などで、配偶者や生計をともにする家族と離れて暮らしている場合、自宅に帰るための交通機関運賃、自動車での移動にかかる費用を帰宅旅費として特定支出に含められます。帰宅旅費の定義は「当人の勤務する場所」を起点としていることが特徴。

該当ケース

東京に家族が居住し、当人が大阪に赴任していても、ある時期だけ福岡で勤務していれば「福岡・東京間の交通費」が帰宅旅費に該当します。

  • 注意点

    会社から「もっとも経済的かつ合理的な移動ルート」であると認めてもらう必要があるのは、職務上の旅費と同様。列車や航空機の「特別な施設」の利用が認められないのも同じです。

特定支出7:勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)

図書費・衣服費・交際費など、当人の職務遂行に必要だと会社から証明された費用に関しては、最大65万円の範囲内に限り、勤務必要経費名目での特定支出が認められます。

図書費 専門書などの書籍、金融などの特定分野を扱う新聞・雑誌、職務遂行の参考になる図書などが対象
衣服費 制服・事務服・作業服など、勤務場所での着用が必要な衣服などが対象
交際費 給与支払者(勤務先)の得意先・仕入先など、職務上関係ある方に対する接待・贈答などが対象

図書費・衣服費・交際費は勤務必要経費としてまとめて扱われますが、それぞれの費用ごとに特定支出の証明書が必要となることは留意しておきましょう。

特定支出に含まれないものは?

ここまでで、特定支出控除の対象となる特定支出の種類・内容を解説してきましたが、職務上必要だと判断される費用であっても、特定支出に含まれないものもあります。

特定支出控除に含まれる例

電子書籍の購入費用は図書費として認められます。

特定支出控除に含まれない例

電子書籍を閲覧するためのコンピューターや携帯端末の購入費用は特定支出として認められません。同様に、テレワークの環境を整える目的でコンピューターや、デスク・椅子を購入しても、これらの費用は特定支出の対象外とされています。

特定支出控除額の計算方法

それでは、特定支出控除の適用を受けることによって、どのくらい所得税が控除されるのか?特定支出控除額の計算方法を紹介しておきましょう。

  • 収入金額 -「給与所得控除額 +(特定支出の合計金額 - 給与所得控除額の1/2)」= 給与所得

特定支出控除額の具体的な計算例

給与所得控除額は該当する方の年収に応じ、以下の表に当てはめて計算します。

給与等の収入金額 給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1.625,001円〜1,800,000円まで 収入金額 × 40% - 100,000円
1,800,001円〜3,600,000円まで 収入金額 × 30% + 80,000円
3,600,001円〜6,600,000円まで 収入金額 × 20% + 440,000円
6.600.001円〜8,500,000円まで 収入金額 × 10% + 1,100,000円
8,500,001円〜 1,950,000円

参照元:国税庁「No.1410 給与所得控除」

たとえば、給与収入が500万円の方であれば、給与所得控除額は144万円となるため、所得税の対象となる給与所得は「356万円」となります。

一方、同じ方が年間に支払った特定支出の合計金額が100万円だった場合、給与所得は以下のように計算されます。

  • 500万円 -「144万円 +(100万円 - 144万円 × 1/2)」= 328万円

特定支出控除の適用を受けることによって「356万円 - 328万円 = 28万円」の所得の圧縮効果が得られます。

特定支出控除申請手続きの進め方

特定支出控除の適用を受けるためには、必要書類を揃えたうえで確定申告する必要があります。確定申告の手続き自体はそれほど難しいものではありませんが、これまで手続きしたことがないという方に向け、特定支出控除の申請を含めた確定申告の手順を簡単に紹介しておきましょう。

特定支出控除申請に必要な書類

確定申告時に特定支出控除を申請する場合、事前に以下の書類を用意しておく必要があります。

特に、特定支出したことを証明する領収書・レシートなどの保管・管理は非常に重要。これらの領収書・レシートなどは確定申告時に申告書に添付する、あるいは提出時に提示する必要があるからです。

  • 特定支出に該当する費用を支払った証明となる領収書・レシートなど
  • 特定支出に関する証明書
  • 特定支出に関する明細書
  • 源泉徴収票
  • 確定申告書

特定支出を証明する領収書等は、原則としてすべて添付・提示する必要がありますが、JRを含む公共交通機関の運賃が1,000円未満のものに関してはこの限りではありません。ただし、領収書等が不要な費用であっても「金額」「利用した日付」「支払先」は記録しておく必要があります。

特定支出に関する証明書の用意・作成

書類が揃ったら、まずは領収書・レシートを参照しながら「特定支出に関する証明書」に必要事項を記入し、勤務先の会社に提出しましょう。すでに解説したように、特定支出控除の適用を受けるためには、支払った費用が特定支出であることを会社に証明してもらう必要があるからです。

確定申告の期間は、該当年の翌年2月16日から3月15日が原則となるため、早めに提出しておくのがおすすめ。特定支出に関する証明書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。

ダウンロード先:国税庁「給与所得者の特定支出に関する証明書」

特定支出に関する明細書を作成

会社から認めてもらった証明書をもとに、特定支出の個別費用を「特定支出に関する明細書」に書き写していきます。特定支出に関する明細書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。

ダウンロード先:国税庁「給与所得者の特定支出に関する明細書」

確定申告書を作成して申告

特定支出に関する証明書・申請書、および源泉徴収票を参照しながら「確定申告書」を作成し、必要書類とともに税務署に提出します。特定支出控除を適用することで「所得額」が変更になるため、所得額に応じた所得税・復興特別所得税を計算し直し、納付済みの源泉徴収税との差額を「還付される税金」に記入する流れになります。確定申告書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。

ダウンロード先:国税庁「確定申告書等」

オンラインの「確定申告書等作成コーナー」がおすすめ

ここまでで特定支出控除申請の進め方を解説してきましたが、近年ではオンラインで簡単に確定申告できる環境が整いつつあります。「確定申告書等作成コーナー」を活用すれば、指示に従って必要事項を入力するだけで確定申告書を作成できるため非常に便利。

e-Taxを活用すれば、申告をオンラインのみで完結できるのはもちろん、税金の納付・還付もオンラインで済ませられます。ICカードリーダーがなくてもe-Taxが利用できるようになったため、積極的にオンラインサービスを利用することがおすすめです。

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参照元:国税庁「確定申告書等作成コーナー」

特定支出に関する証明書・明細書の書き方

「特定支出に関する証明書」の書き方については、特別難しいことはありません。特定支出の種類に応じた書式をダウンロードし「特定支出に関する証明の依頼書」部分を自身で記入、会社に「特定支出に関する証明書」部分を記載してもらうだけです。

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出典:国税庁「特定支出(通勤費)に関する証明書」

「特定支出に関する明細書」の書き方も特に難しいことはありませんが、支払った費用を漏らさず記載する必要があるため、領収書・レシート等の保管・管理が重要です。

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出典:国税庁「特定支出に関する明細書」

搭乗・乗車・乗船に関する証明書とは

最後に「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」について補足解説しておきましょう。帰宅旅費の特定支出に関しては交通費が高額になることが考えられますが、ひとつの交通機関の運賃・料金が15,000円以上になる場合、都度「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」を取得する必要があります。

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出典:国税庁「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」

空港の航空会社カウンター、列車の車掌、降車駅の精算所などで搭乗券・乗車券などとともに証明書を提示し、記載してもらう必要があるため、移動時は常に用紙を用意しておくようにしましょう。

まとめ

特定支出控除の詳細を調べている方に向け、特定支出の定義・種類、必要な証明書や書き方、手続きの進め方や控除額の計算方法などを解説してきました。

適用条件などのハードルが低くなったとはいえ「給与所得控除額の1/2」以上という要件をクリアしなければならないため、まだまだ利用しやすい制度だとはいえないことも事実です。

利用できる・できないに関わらず、前提となる領収書・レシート等の保管・管理を習慣づけておくのがおすすめです。

監修者の一言

特定支出控除は平成24年と平成28年に改正があり、控除額の拡大や要件の緩和がありましたが、まだまだ適用の要件は厳しいものとなっています。適用を受けるには2つの高いハードルがあります。

1つ目は手間がかかるという点です。業務のために使用したということをひとつひとつ証明しなければなりません。特に旅費や勤務必要経費については個人使用のものと明確に区別する必要があります。

2つ目は適用を受けるための金額要件が厳しいという点です。特定支出額が給与所得控除額の2分の1を超えなければ適用を受けることができません。給与収入が400万円の方であれば62万円、年収500万円の方であれば72万円と高額な特定支出が必要になります。

特定支出控除の適用を受けることができる方というのは限定されているかもしれません。適用を検討される方は特定支出に係る領収書や証明書の保存をもれなく行い、時間が経過してからでも業務のために使用したことがわかるように記録をしっかり残しましょう。

青木征爾税理士事務所
税理士 青木征爾
監修者

札幌市を中心に活動する税理士。アパレル業界から未経験で税理士業界に飛び込む。その後、個人事務所、資産税系コンサルティングファームで経験を積み独立。税理士の仕事で重要なことはお客様とのコミュニケーションであるという考えから対話を重視している。中小企業の経営支援、スタートアップ支援、相続業務を得意としている。

比較ビズ編集部
執筆者
比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。
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