社員旅行は経費で計上できる?3つの条件とポイントを解説
- 社員旅行は経費計上できるの?
- 経費で計上できないパターンは?
- 経費で計上するための条件は?
社員旅行の費用を経費として計上できるか否かは、経営者や経理部署にとって気になる事項でしょう。結論からいえば「経費になるが、処理の仕方にはルールがある」となります。
税務上のルールを正しく理解して実施すれば、何の問題もなく経費で従業員を労うことが可能です。間違った認識で企画すると、会社だけでなく従業員も負担を被る可能性があるため注意しましょう。
本記事では、社員旅行を経費で計上する条件や計上できないパターン、計上するためにやるべきことを詳しく解説します。
社員旅行は福利厚生費として経費計上可能
社員旅行は、会社として意思決定し従業員の福利厚生として企画するのであれば「福利厚生費」として経費計上できます。
会社が事業を行う上で必要なものと判断すれば、社員旅行も経費として計上可能です。
会社関連であっても、私的な旅行はどうやっても経費にはならず処理もできないので注意してください。
社員旅行は所得税の対象になりうる
社員旅行が実質的な給与とみなされ、従業員の収入として所得税の課税対象とされるケースがあるため、税務処理には注意しましょう。
福利厚生費は原則として「給与」の扱いとなり、そこには所得税が課されることが「所得税法第36条」に定められています。
給与以外の名目であっても、金銭や無償の便益等の供与を受けた場合は所得税の課税対象です。旅行代金であっても給与だとみなされれば課税されます。
課税対象にならない4つのパターン
社員旅行の中で、現物給与(非現金給与)に該当する項目は、課税しなくていいとされています。現物給与の条件は国税庁の公式サイトによると、以下の4つのパターンです。
- 業務遂行上必要で支給されるもの(職務性質上欠くことができない)
- 換金性に欠けるもの
- 評価が困難なもの
- 受給者側に選択の余地がないもの
現物給与は、金銭給与とは取り扱いが異なることも認められていますので、4つのパターンを確認しておきましょう。
福利厚生費の範疇と認められる3つのポイント
社員旅行を経費計上するためには、一般的な福利厚生費の範疇を超えないことが前提となります。
広義的に人件費の一部である
従業員の満足度を高める施策は、従業員の定着率を高めることにつながるため、広義の意味で会社の人件費の一部と考えることができます。
福利厚生費は従業員への非金銭報酬です。 金銭以外の報酬を与える狙いはさまざまありますが、多くの場合、従業員のモチベーションを上げて生産性を高めることを目的としています。
こうした目的のために支出する費用は、福利厚生費と認められやすいです。
従業員に等しく与えられている
福利厚生費として計上するには、すべての従業員を対象としたものである必要があります。
一部の従業員や役員のみが対象とされるような企画内容は、福利厚生費として認められません。
成績トップ社員にのみご褒美の旅行に連れていく場合や、役員のみで旅行に行く場合は、給与とされる可能性が高いでしょう。
社会通念上一般的な範囲である
会社の負担額があまりに高額である場合や旅行期間が長い場合には、社会通念からしても常軌を逸すると判断されます。
社会的通念や一般常識が基準になると、定義があいまいになり、判断が難しいのは事実です。時代や社会情勢によっても尺度は変わりますので慎重になる必要があるでしょう。
ほかの企業がどのような企画を実施しているか情報を得て、足並みを揃えるのも一つの手段です。
社員旅行を福利厚生費として計上する3つの条件
会社負担額:1人10万円以内に
従業員1人当たりの会社の費用負担額は10万円以内にとどめましょう。国税庁の公式サイトに掲載された「会社負担額が1人あたり10万円の場合は少額不追求の趣旨を満たす」事例が目安になります。
「少額不追求」とは、税務において「社会通念上少額と判断されるものまでは追求して課税しない場合がある」という考え方です。
これまでに国税不服審判所で裁判となったのは、従業員1人あたり24万円の負担となった海外旅行の事例です。実施日程は2泊3日で、従業員のほぼ全員が参加した社員旅行でしたが、多額のため所得税の課税対象とされる判決が出ています。
泊数:4泊5日以内に
国税庁の公式サイトでは、国内外問わず、現地での滞在日数が4泊5日以内であれば、旅行費用を参加者の給与としなくてもよいとされています。
場合によっては4泊6日(機内泊あり)でも条件を満たすとされていますので、参考にしてスケジュールを組み立てるといいでしょう。
国税庁の確認は旅程表で行われますので、資料はすべて保管しておき、いつでも税務調査官に提示できるようにしておいてください。
参加人数:職場従業員の50%以上に
社員旅行に参加した人数が、従業員の50%以上になるようにしましょう。 50%以上が参加したかどうかは、国税庁からの勘案の際に社員名簿と参加者リストで確認されます。
複数の拠点や工場などを持つ企業の場合、それぞれの職場に50%以上の従業員が参加すれば問題ないとされています。 全社単位ではなく職場単位である点は大きなポイントです。
一部の従業員や役員だけによる旅行も企画は可能ですが、給与扱いとなり所得税が課税されます。
社員旅行が福利厚生に当たらない4つのパターン
国税庁からは社員旅行の詳細な実態まで勘案されるため、上記のパターンに該当しないように正しく計画しましょう。
不参加者に金銭支給する
社員旅行に参加しない従業員に、社員旅行の費用に該当する金銭を支給すると、その旅行自体が所得税の課税対象となります。 国税庁が明確に提示している内容であり、福利厚生ではなく給与とみなされます。
金銭を受領した従業員のみが課税されると考えがちですが、社員旅行全体が給与とみなされる点が非常に重要です。1人でも金銭支給を受けた場合、旅行参加者全員が課税対象になります。
「社員旅行の不参加者には旅行費用分の金銭支給はない」旨を募集時点であらかじめ伝達しておくといいでしょう。
福利厚生の条件に外れる
社員旅行が福利厚生と認められる以下の条件に外れた場合は、課税対象となります。
- 会社負担額を1人10万円以内に
- 泊数を4泊5日以内に
- 参加人数を職場従業員の50%以上に
1人あたりの金額・泊数・参加率のうち1つでも条件を満たさない場合は、給与として扱われることに注意しましょう。
すでに実施してしまった場合でも後から課税されるため、企画段階から綿密に計画を進める必要があります。どうしてもクリアできない条件があるなら、時期や実施内容など計画自体を見直してみてください。
役員や一部社員のみが参加する
会社役員だけで行う慰安旅行の企画は、福利厚生には該当しません。
福利厚生はあくまで全従業員を対象とし、平等に実施されるものです。成績優秀者や幹部候補社員などに限定して実施することは福利厚生の範囲外になります。
単なる旅行ではなく、役員で事業計画を検討する合宿会議をしたケースの場合は、会議に通常要する費用を会議費として経費処理できます。
取引先に接待する
社員旅行と取引先の接待を兼ねようと、同じ旅行に同伴させる企画を立ててしまうと福利厚生にはなりません。 社外の人間が参加すると、福利厚生の旅行には該当しないためです。
取引先や関係者など社外の参加者を入れたい場合は、その分の経費をすべて別計算し、交際費として処理するという手段があります。交際費にする場合交際費の範囲から除かれるものもあるため、一度国税庁の公式サイトから確認しておくといいでしょう。
福利厚生費として計上できない3科目
社員旅行で発生する費用はさまざまですが、付随する費用の中には経費として計上できない科目があります。以下の3つのケースでは、福利厚生費とは分けて計上し、別科目として経理処理されなければなりません。
- パスポート代は別途計上
- 家族同伴の場合は給与として計上
- 業務と観光を兼ねる場合は別計上
旅費のほか社員旅行に付随するさまざまな費用について、会社の経費になるか否かも含めて解説します。
パスポート代は別途計上
パスポート代は社員旅行とは切り分けて処理しましょう。パスポートは業務遂行上の必要から支給されるものではなく、5年以上という長期にわたり個人に帰属するものだからです。
会社側で負担する場合、福利厚生費や租税公課などの経費にできますが、税務上では給与として扱われます。
社員旅行で海外旅行に行く場合、すべての従業員にパスポートが必要となります。 パスポートの発行・更新には、1人あたり数千円〜1万円弱程度の費用がかかるため、会社側で負担する場合は事前に金額を概算しておきましょう。
家族同伴の場合は給与として計上
社員旅行に従業員の家族同伴させた場合は、給与課税にとして扱われます。国税不服審判所の過去の裁決でも、社会通念上一般的に行われている福利厚生行事とは認められないとされました。
家族の参加費まで会社が負担するのは一般的ではなく、同伴させる家族を持たない単身者との不公平も発生するため、福利厚生のルールに反します。
ただし判例がないものの、身体障害者の従業員に付き添いが必要とされる場合には、別途正式な判断が求められるでしょう。 予めしかるべき専門家に確認を取るほうが懸命です。
業務と観光を兼ねる場合は別計上
社員旅行が業務と観光を兼ねる場合は、観光期間は福利厚生費として計上できません。私的な旅行費を会社が負担した場合は給与として課税されます。
出張と観光を行い費用は全額会社負担の場合、企画段階から日程ごとに経費計算を分け、観光にあたる日程の分は給与課税としましょう。
出張業務を行いながら、半分は観光も行うというケースは多く考えられます。 該当するケースを詳しく知りたい方は国税庁のタックスアンサーを参照しましょう。
経費で計上するためにやるべき2つのこと
国税庁からの勘案の際には、対象となる社内旅行の実態を細かく確認されます。「証拠書類の保管」や「就業規則への明記」など、経費計上する上で必要な項目は全て実施するようにしてください。
証拠書類の保管
社員旅行が実施された証拠として以下の書類は必ず保管し、国税庁の指摘を受けないよう準備しておくことが重要です。
- 参加者リスト
- 旅行のスケジュールやパンフレット
- 旅行中の請求書や領収書
- 現地での集合写真
参加者は全員漏れなくリストアップしておきましょう。旅行のスケジュールは作成した上で証拠としてデータ保管しておいてください。
旅行中はあらゆる請求書や領収書を取得して保管しておくことが大切です。現地での集合写真を保管することも社員旅行が実施された証明になります。
就業規則への明記
会社の就業規則に「福利厚生として定期的に社員旅行を行う」旨を明記するようにしましょう。
税務調査が行われた際でも、社員旅行が私的な目的や従業員に不平等な施策ではなく、従業員全員に公平に参加する権利がある裏付けになります。
【まとめ】ルールに則った経費計上をしましょう
本記事では、社員旅行を経費として計上する方法やポイントを紹介しました。
重要なのは、税務上どのような処理となるかルールを正しく理解することです。適切な運用ができれば、社員旅行は従業員のやる気や生産性を上げる企画になります。
チームワークを固めたり業務にプラスになる刺激を得られたりもしますので、人件費として費用対効果も期待できるでしょう。
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1990年生 大阪府出身 大阪大学経済学部卒業。個人事務所、200人規模の税理士法人で実務経験を積み、2021年に独立。「お客様との対話を大事にする」をモットーに、クラウド会計を活用し、顧客に合わせた節税策や資金繰り対策を積極的に提案。ZOOMを使ったオンライン顧問サービスを行い、クライアントは全国に。

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社員旅行はあくまで従業員のモチベーションの向上や福利厚生を目的として行うものです。家族経営の個人事業主や中小企業が、従業員である家族とだけで実施する社員旅行は、慰安旅行の意味合いが強く、経費として認められることは非常に難しいです。
経費として計上するための一般的なルールは、記事にも記載しているように、
4泊5日以内の旅行であること
⊇抄醗の50%以上が参加していること
2饉夘蘆干曚1人10万円以内であること
という数値で判断できる基準が設けられています。
上記のルールを逸脱すると、旅行にかかった費用が給与として所得税の課税対象となります。 社員旅行を経費としたい際は、ルールに注意をして企画していきましょう。