相続登記には委任状が必要?誰が書く?委任状の書き方や注意ポイントも解説!
- 相続登記するときには委任状が必要?不要な場合もある?
- 相続登記の委任状はどのように書けばいい?決まった書式はある?
- 相続登記の委任状はだれが書くもの?書くときの注意点は?
「不動産を兄弟で相続することになったけど、代表者として自分が相続登記することになった」「相続登記を自分自身で手続きしたい」という方であれば、上述したような疑問を感じているはず。たしかに、相続登記は相続人本人で手続き可能ですが、親族から委任状を受け取ったとはいえ、本人以外の登記手続きを代行していいものか?不安を覚えている方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、相続登記で委任状が必要なのはどのような場合なのか?委任状はだれが書くべきなのか?委任状の書き方や注意点も含めたよくある疑問を徹底解説!司法書士に代行を依頼した場合のメリット・費用なども紹介していきます。
相続登記とは「相続による所有権移転登記」
相続登記とは「相続による所有権移転登記」のことであり、実は相続登記という名称の手続きは存在しません。それでは所有権移転登記とはなにかというと、土地・建物を含む不動産の所有者に変更が生じた際に、不動産登記事項証明書の「権利部」を書き換える「不動産登記」手続きのことです。
不動産売買の際も所有権移転登記されますが、亡くなった方から相続人へと所有者に変更が生じた場合の所有権移転登記手続きを、特に「相続登記」と呼んでいるというわけです。相続登記は、主に以下の3パターンに分類できます。
- 遺言による相続登記
- 遺産分割協議による相続登記
- 相続人全員の氏名で相続登記
もっと詳しく知りたい方は、下記リンクをご覧ください。
相続登記を怠るとどうなる?
2022年3月現在、相続登記は法律で義務化されているわけではなく、いつまでに相続登記しなければならないという決まりがあるわけでもありません。しかし、相続登記を怠ることで、以下の3つのような問題が起こる場合があります。
- 土地を売りたい、担保にして融資を得たい場合にすぐに実行に移せない
- 不動産を共有する相続人が亡くなって相続の話し合いがこじれてしまった
- 固定資産税を納付していても相続登記していなければ不動産は自分のものにならない
相続登記は2023年4月1日から義務化される予定
実際、相続登記を怠る方が後を絶たないことによる空き家問題などが深刻化しており、2021年4月21日に改正不動産登記法が成立、2023年4月1日からは相続登記が義務化されることになりました。
これによって、相続で不動産を取得したことを知った日から、3年以内の相続登記が義務となり、違反した場合は10万円以下の罰金が科されます。忙しくて相続登記をやり過ごしてしまっている、相続人同士が遠方に居住していて相続登記が進まないという方は、できる限り早いタイミングで相続登記しておかなければなりません。
参照元:法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」
相続登記には委任状が必要?
相続登記では、通常の所有権移転登記とは異なり、収集・提出すべき書類が多岐に渡ります。下記に早見表を用意したので、ご覧ください。
必要な書類 | 入手する機関 |
---|---|
戸籍謄本(相続人全員分) | 市区町村役所 |
住民票(相続人全員分) | 市区町村役所 |
印鑑証明(相続人全員分) | 市区町村役所 |
固定資産評価証明書 | 市区町村役所 |
遺産分割協議書、遺書 | 作成 |
相続関係説明図 | 作成 |
登記原因証明情報 | 市区町村役所 |
不動産登記申請書 | 法務局・法務局オンライン |
さらに、相続登記の際に委任状の提出が必要になる場合もあります。それでは、相続登記で委任状が必要になるのはどのような場合なのか?不要な場合もあるのか?以下の3つのパターンから簡単に紹介していきましょう。
- 相続人が相続登記する場合
- 代表者・専門家が相続登記を代行する場合
- 相続登記の代行でも例外的に委任状が不要なパターン
相続人が相続登記する場合
不動産を相続する相続人がひとりのみで、相続人本人が自ら相続登記する場合は、委任状は不要です。たとえば、亡くなった方の親族がひとりしかいない、あるいは、遺言によって不動産を相続したのがひとりだけ、といったケースが当てはまります。
代表者・専門家が相続登記を代行する場合
不動産を相続する相続人の代表者、もしくは相続人全員を代行する専門家が相続登記の手続きをする場合は、全員分の署名・捺印の記載された委任状が必要です。この場合、すべての書類が揃っていても、委任状がない、不備がある状態だと相続登記の申請を受け付けてもらえません。
これとは別に、不動産を相続した夫が相続登記できないため、妻に登記申請を委任するなど、相続人がひとりでもこのケースでは委任状が必要。原則として、自分以外の他人に相続登記を依頼する場合は、たとえ専門家であっても委任状が必要不可欠だといってもいいでしょう。
相続登記の代行でも例外的に委任状が不要なパターン
ただし、専門家以外の他人であっても、例外的に相続登記を代行するのに委任状が不要なパターンもあります。具体的には相続人が未成年者の場合の「親権者」、自分では適切な判断ができない人の「成年後見人」、親権者のいない未成年者の「未成年後見人」です。
このパターンでは、相続人本人の代理権が認められているため、委任状がなくても相続登記の代理が可能。それぞれ、親権者・成年後見人・未成年後見人であることを証明する書面を準備して相続登記することになります。
相続登記を代行できるのはだれ?
不動産登記事項証明書の「権利部」を書き換える不動産登記のひとつ、相続登記を代行できるのは、司法書士と弁護士です。ただし、相続登記を「業務」として代行できるのが司法書士・弁護士だというだけで、登記申請をだれに依頼するかは相続人が自由に決められます。この裁量権を証明する書類が委任状というわけです。
つまり、代表者として自分以外の相続人の相続登記をまとめて代行することはもちろん、自分自身が相続人でなくても、委任状さえあればほかの人の相続登記も代行可能です。
この場合、相続登記の代行は「無報酬」でなければなりません。代行を依頼する相続人が、交通費などの実費を負担するなら問題ありませんが、報酬を受け取って相続登記を代行すると、司法書士法や弁護士法に違反する形になります。
相続人が複数の場合の委任状の取り扱い
相続人が複数存在する場合の委任状の取り扱いにも、若干、例外的な措置があります。下記の2つからそれぞれ見ていきましょう。
- 委任状の作成・添付が不要な場合
相続した不動産をそれぞれの相続人が「法定相続分」で分割することに合意している場合。法定相続分とは、被相続人の遺言などが残されていない場合、法定相続人の順位に応じ、各相続人の取り分として法律で定められた割合のことです。
- 委任状の作成・添付が必要な場合
遺産分割協議や遺言などによって、各相続人の取り分が法定相続分と異なる分割になる場合。各相続人が相続登記で申請のあった割合で本当に合意が得られているのか、委任状がなければ判断が難しいためです。
亡くなった方の妻、子どもが相続人である場合、それぞれの法定相続分は1/2ずつになり、この通りに相続登記するのであれば委任状は不要です。
不要でも委任状は用意しておくことがおすすめ
ただし、不要な場合であっても相続登記の際は委任状を用意しておくことがおすすめです。なぜなら、不要な場合に委任状が添付されていても問題になることはありませんが、委任状がなければ相続登記を受け付けてもらえないからです。あとから慌てて委任状を用意することになるよりは、ムダになっても委任状があった方が相続登記をスムーズに進められます。
また、委任状があれば代表者以外の相続人にも「登記識別情報通知書」が届けられます。不動産の売却や融資の際の抵当権設定などに必要になるため、相続人全員が通知書を受け取れるようにしておくことがベストです。
相続登記の委任状の書き方
相続登記の委任状には決められた書式がなく、正式なひな形・テンプレートなどというものもありません。だからといって自由に書いていいというものでもなく、相続登記の委任状には法的に必ず記載しなければならないことが決められています。
本記事では、法務局が公開している「所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)」の記載例をもとに、相続登記の委任状の書き方を解説していきます。委任状を正確に書くためには、相続した不動産の情報を細かく記載する必要があります。委任状の作成に取り掛かる前に、法務局で相続した不動産の登記事項証明書を取得しておきましょう。
では、下記の赤で囲まれた6つの事項について、それぞれ解説していきます。
- (1)相続登記の受任者・受任者の権限
- (2)登記の目的
- (3)原因
- (4)相続人
- (5)不動産の表示
- (6)日付・委任する人の住所・署名・押印
(1)相続登記の受任者・受任者の権限
まず委任状の(1)に、相続登記の受任者となる方の住所と氏名、および受任者に与えられる権限を列挙して記載します。この場合の受任者とは、不動産を相続する相続人全員の代表者などのこと。住所・氏名は住民票などに記載されている通り、正しく記載する必要があります。
また、受任者の権限を明記しておくことにより、相続登記に必要な手続きが漏れてしまうことを防げます。特殊な例を除き、受任者の権限は以下の5項目を記載しておけば問題ありません。
- 登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面とともに登記申請書を管轄登記所に提出すること
- 登記識別情報通知書及び登記完了証を受領すること
- 登記の申請に不備がある場合に、当該登記の申請を取り下げ、又は補正すること
- 登記に係る登録免許税の還付を受領すること
- 上記全てのほか、下記の登記の申請に関し関し必要な一切の権限
(2)登記の目的
委任状の(2)に、相続登記の目的を記載します。亡くなった方(被相続人)が単独で所有していた不動産を相続するのであれば、所有権移転登記となるため「所有権移転」と記載しますが、不動産共有していた場合は「(被相続人のフルネーム)持分全部移転」と記載する必要があります。
相続した不動産が単独所有なのか、共有なのか不明な場合は、登記事項証明書を参照すればわかります。権利部に「所有者」とあれば単独所有、「共有者」とあれば共有です。
(3)原因
委任状の(3)に、相続登記の原因、つまり被相続人が亡くなった日を「平成◯年◯月◯日 相続」と記載します。亡くなった日が正確にわからない場合は、戸籍を調べることで特定できます。
(4)相続人
委任状の(4)に、相続人の情報を記載します。最初に被相続人の氏名を(被相続人 フルネーム)で記載し、続く形で相続人の住所・氏名を正しく記載します。相続した不動産が被相続人の単独所有で、相続人が1名であれば氏名・住所だけで問題ありませんが、相続人が2名以上いる場合は、記載例のようにそれぞれの持分を「持分2分の1」という形で記載します。
(5)不動産の表示
委任状の(5)に、相続した不動産の情報を記載します。手元に用意した登記事項証明書の内容をもとに、土地・建物の情報をそのまま転記します。土地を共有している場合は、地籍の後に(共有者 被相続人のフルネーム 持分)を追記します。
相続した不動産がマンションの一室だった場合「一棟の建物の表示」「専有部分の建物の表示」「敷地権の目的である土地の表示」「敷地権の表示」に分けて記載する必要があります。
(6)日付・委任する人の住所・署名・押印
最後に、委任状の(6)に委任状を作成した日付とともに、委任する人の住所・署名を記載して押印します。委任する人とは、相続登記を依頼する人のこと。押印する印鑑は実印でも認印でもどちらでもかまいません。
相続登記の委任状はだれが書く?
上述したように、相続登記の委任状には決まった書式というものがありません。書き方で紹介した項目さえ漏れなく記載されていれば、手書きで作成してもワープロソフトで作成しても問題なく、委任者・委任する人を含め、だれが委任状を書いてもかまいません。
相続登記の委任状で注意しておきたいポイント
決まった書式がない、だれが書いてもかまわないとはいえ、不備があれば相続登記が否認されてしまう場合もある、重要な書類といえるのが委任状です。どのような項目を記載すべきなのかという書き方だけでなく、それにともなって注意しておきたいポイントがあります。以下の3つのポイントから簡単に解説していきましょう。
- 委任者・委任する人の氏名は直筆での記載がおすすめ
- 白紙委任状は避ける
- 訂正印・契印を忘れずに
委任者・委任する人の氏名は直筆での記載がおすすめ
相続登記の委任状は、ワープロソフトで作成しても問題ないことは紹介しましたが、委任者・委任する人の氏名は、直筆(サイン)で記載することがおすすめです。なぜなら、あらかじめ氏名をワープロソフトなどで記載済みにしておくと、相続登記に合意した、合意していないといった紛争・トラブルの要因に発展してしまう可能性があるからです。
委任者・委任する人それぞれが直筆すれば完成する、といった形に委任状を仕上げておくことがおすすめ。できれば氏名に加えて、住所も直筆で書いてもらうようにしたほうがいいでしょう。
白紙委任状は避ける
白紙委任状とは、本来委任状に記載されるべき委任項目が空白になっており、委任する人の住所・署名・捺印だけが記載されている委任状のこと。相続登記の委任状でいえば、委任者の権限、登記の目的、原因、不動産の表記などが記載されていない委任状ということになります。
こうした白紙委任状に署名・押印することは絶対に避けましょう。空白の部分に思いがけないことを記載され、損害を被ってしまう可能性が大きいからです。トラブルや紛争の要因にもなってしまうため、どんなに信頼できる人が相手であっても白紙委任状は避けるべきです。
訂正印・契印を忘れずに
委任状へ間違えて記載してしまった場合は、二重線で間違った箇所を消し、署名に押印したのと同じ印鑑で訂正印を押印します。捨印は悪用されてしまう可能性があるため、自身で委任状を作成するときは押印しないほうがいいでしょう。
また、不動産の表示や委任する人の数によっては委任状が1枚で収まらない場合があります。委任状が1枚以上になる場合は、それぞれのページにまたがるように契印することを忘れずに。
司法書士なら委任状も用意してくれる
ここまでで、相続登記で委任状が必要な場合、不要な場合を解説するとともに、自力で委任状を作成する際の書き方・注意点などを紹介してきました。状況に応じて手続きが複雑になりがちな相続登記、そして委任状の作成に不安を感じた方も多いのではないでしょうか?
登記のスペシャリストである司法書士に依頼すれば、不動産登記申請書の作成はもちろん、面倒で複雑になりがちな委任状も作成してくれます。あとは、相続人が署名・押印するだけ。司法書士報酬が必要になるのは事実ですが、仕事で忙しい方にとっては逆に貴重な時間を節約できます。
相続登記代行を司法書士に依頼した場合の報酬は?
それでは、相続登記代行を依頼した場合、気になる司法書士の報酬はいくらくらいなのでしょうか?相続による所有権移転登記の場合、かかる費用はおおまかに「登録免許税」「司法書士報酬」の2つ。登録免許税はだれが手続きしてもかかる費用であり、相続の場合、土地・建物それぞれの評価額の0.4%の金額です。
土地・建物それぞれの評価額が1,000万円の場合 | 自力で相続登記する費用 | 司法書士に依頼する費用 |
---|---|---|
登録免許税 | 80,000円 | 80,000円 |
司法書士報酬 | 0円 | 60,000円〜110,000円 |
合計 | 80,000円 | 140,000円〜190,000円 |
約6万円からという司法書士の報酬が高いと感じる方がいるかもしれませんが、必要書類を自身で揃え、負担を軽くすることによってディスカウントに応じてくれる司法書士も少なくありません。まずは、相談してみることがおすすめです。
まとめ:複雑な相続登記は司法書士に相談しよう
相続登記が’必要になったが、委任状は必要なのか?どう書けばいいのか?わからない方に向け、本記事では、相続登記で委任状が必要なのはどのような場合なのか?委任状はだれが書くべきなのか?委任状の書き方や注意点も含めたよくある疑問を解説するとともに、司法書士に代行を依頼した場合のメリット・費用なども紹介してきました。
亡くなった被相続人はもちろん、自分以外の相続人が関わってくる相続登記は、手続きが複雑になりがちであり、それに連動するように委任状の作成も複雑。わからないまま自力で手続きして否認されるよりは、早めに司法書士に相談することがおすすめです。
そんなとき「比較ビズ」なら、必要事項を入力する2分程度の手間で、相続登記に強い司法書士をスピーディーに探せます。どの専門家に相談すべきなのか?迷うようなことがあれば、是非利用してみてください。
1984年京都市生まれ。不動産・相続・会社の「登記」に必要な手続きを代理する専門家であり、若手ならではのフットワークの軽さと様々な職業経験で培った対応力を持つ法務大臣認定司法書士。自身が法律知識ゼロで資格学習を開始した経験から法律の適用や用語の難しさを理解しており、平易でわかりやすい説明を心がけており評価を得ている。
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令和6年4月1日から相続登記が義務化されるということ自体が未だ周知されきっていない気もしますが、その相続登記義務化に伴い、罰則の適用対象となるのは令和6年4月1日以降に相続が発生したものに限らないという点にもご注意ください。
令和6年10月1日に死亡した方の相続登記を令和9年10月1日までに行わなければならないというのはもちろん、例えば平成30年10月1日に亡くなられた方の相続登記を放置している場合も、法改正の適用の日から3年後である令和9年4月1日までに相続登記を行わなければならないということであり、当然放置すれば罰則の適用対象となります。
兄弟相続や2次3次相続が発生している場合などのように、相続関係が複雑な場合は相続人の調査・戸籍等書類の収集にも時間がかかります。また相続人が大人数になった場合は「遺産分割協議」が整わないといったトラブルが発生する事もあります。
いざという時に慌てることのないよう、放置している相続登記がないかお早めにに確認をしてみてください。