動画マーケティングの費用対効果はなぜ見えない?KPI設計と“数字だけじゃない”判断軸
本記事は、比較ビズと株式会社Funusualが共同でBtoB企業148名に実施したアンケート調査をベースに、動画マーケティングの「費用対効果の実感度」から「KPI設計」「運用改善」「社内説得」のコツまでを、株式会社Funusual代表の大野 佑太さんに伺いました。

株式会社FunusualクリエイティブディレクターとしてBtoB大手上場企業100社以上の動画制作や動画マーケティングを支援。会社紹介映像から法人向け動画広告配信、SNS動画広告配信など動画制作・動画マーケティングをワンストップで提案。
費用対効果が「見えにくい」理由
ーー今回の調査では、動画制作に「満足」「非常に満足」と回答した方が60~70%いる一方で、「どちらとも言えない」と答えた方は約15~16%、つまり約5〜6人に1人が動画の費用対効果を実感できていない状態です。費用対効果が実感しにくい理由には、どのような原因があると考えられますか?
大野:経験上、BtoB企業のお客様は、消費者向けのバズ狙い動画広告とは相性が良くないケースが多いです。BtoB企業は一般的に販促や広報の手段として動画マーケティングを用いるため、toC向けの動画広告に比べるとバズ狙いが難しく、事例も少ないです。動画制作に労力と時間を多くかけたため「クリエイティブが完成した」段階でプロジェクトが止まり、集客や売り上げ改善まで道筋が整っていない印象です。
ーー動画制作や動画マーケティングに専門家が関与した場合、効果を実感できるまでにはどの程度の期間を要するでしょうか?
大野:短期的に広告配信などで売上や認知拡大を狙う場合は、数ヶ月で効果が実感できると思います。予算を抑えて長期的なブランド価値向上を目指す場合は、半年から1年、場合によっては2年ほどかかることもあります。目標によって効果実感までの期間の幅がかなり広くなりますね。
動画制作の目的に合った正しいKPI設定
ーー動画の活用目的は企業の認知向上や商品サービスのPRなど企業によってさまざまですが、費用対効果の測りやすさの違いはあるでしょうか?
大野:目的によって全く異なります。ブランディングとは何か、定義が会社によって変わって数値化が難しいので、効果の実感は難しいと言えるでしょう。SNSの「いいね」や「再生数」「フォロワー数」や、リクルート向けの動画は具体的な数に落とし込めるので、効果を実感しやすいと思います。
ーー動画の効果を実感しにくいと答えた方は、エンゲージメントやコンバージョン、再生回数など複数のKPIを設定していることが分かりました。評価軸を見直すべきなのでしょうか?
大野:BtoBにおいてはゴールに直結するKPI設定の見直しが必要ですね。いいね数やシェア数が目標に設定されることは増えていますが、それが売上に直結しているかどうかの統計はまだ十分に取れていません。
多くの企業が持つ最終目標に動画の成果が結びついているか体感できていないこと、そしてそれを計測する有効な手法がまだ確立していないことが、評価が進まない大きな課題だと感じます。
ーー評価に繋がっていない部分、どうすれば解決出来るでしょうか?
大野:毎月地道に調査をして、統計を取ることですね。企業からのご相談として、目新しい施策をやりたいというニーズがありますが、施策の最初は「まずは基本的な調査からやっていきましょう!」とお伝えすると、「思っていたものと違うな……。」と、見送られるお客様もいらっしゃいます。ですが、売り上げに直結する革新的な方法が確立してない以上、地道に基本的な施策をやるしかないと思ってます。
成果を高めるノウハウ

ーー成果指標の観点について、「最低限抑えるポイント」はどこでしょうか?
大野:施策が『広告』なのか『広報』なのかをまずはっきり区別が必要することです。その後で、目的に応じたKPIを設計します。
広告の場合であれば、配信費用にお金をかけたりターゲットを絞り込むことが大切で、正直クリエイティブは作り込む必要はないと考えています。広報に関しては、広告と正反対です。広報の場合は、クリエイティブとか戦略とか、中長期的なスケジューリングが重要になってきます。
広告 × 広報、それぞれのKPI設計
ーーまずは広告と広報、どちらから進めるのかを決める必要があるんですね。
大野:どちらも一緒に進めることはかなり難しいですね。広告では目的に応じたKPIが不可欠です。認知拡大なら「インプレッション数」や「再生数」を、売上向上なら「問い合わせ件数」を指標にします。一方、広報では問い合わせ数や売上をKPIに設定せず、動画制作費を「減価償却」のように捉えて販促ツールとして運用するので、同時進行は難しいかなと。
ーー動画に対して「減価償却」という考え方をするのは少し新鮮でした。実体を持たない動画に対して、具体的にどう考えればよいでしょうか?
大野:ブランディング用・PR用・ショート版の3本制作に200万~500万円ほどかかったとすると、3~5年で活用するとして年間コストは数十万~100万円ほどになります。動画は数年間デジタルサイネージやウェブ掲載、営業ツールなどに使えるため、制作費を割ったうえでどれだけ低コストで活用できるかを指標にします。
ーー企業で動画を運用する場合、「目標の達成可否」という指標を重視してしまいますが、考え方を変える必要がありそうですね。
大野:企業の本音としては、1本の動画で「あれもこれも実現したい」というのが正直なところだと思います。コストを抑えながら、さまざまな取り組みに活用できれば、それが最も理想的な形です。しかし、すべてを一度に達成しようとすると、莫大な予算が必要になります。
十分な予算をかけられない場合、「何をするか」を明確にし、絞り込んだ施策を集中して行うことが大切です。地道な取り組みにはなりますが、KPIを定める前提条件になるとご提案しています。
KPIの達成とブランド価値のバランス

ーー最近はインターネットでバズったコンテンツを取り入れる企業も見受けられますが、ブランド価値と短期的なKPIのバランスをどのように考えていますか?
大野:ブランド価値とKPIは似ているようで全く異なるものだと考えています。ブランド価値は企業の長期的な事業戦略に近く、マーケティングの枠を超えた方向性を示すものです。長期的に不確実な要素をどう高めるかを模索するもので、KPIの達成とは性質がまったく異なります。
ーーKPIとブランド価値、どちらを重視すべきでしょうか?
大野: 基本的にはどちらも重視すべきだと思います。そのために、毎年策定する経営戦略や事業計画を踏まえ、各部署が具体的に「どの施策が効果的だったか」「どの施策が効果的でなかったか」を因数分解して検証していくことが必要です。 効果があった施策は継続しつつ、予算の範囲内で新たな施策を検討します。動画広告の活用やYouTubeの利用、営業ツールとしての動画制作などですね。細かく分析しながら最終的にKPIを設定していくという流れになります。
ーー伺った限りでは事業戦略や計画がしっかりしていないまま「動画が流行っているからやってみよう」というやり方は、少し危ういように思いました。
大野: まさにその通りです。事業計画の理解がないままトレンドだけで施策を進めるのは、企業にとってリスクが大きいと思います。事業戦略とKPIの目標値をしっかりすり合わせることが、バランスをとる上でとても重要だと考えています。
PDCAで磨く動画マーケティング

ーー動画運用の効果を高めるために実践している取り組みについて教えてください。
大野:コンバージョン率重視の運用では、まず動画広告のクリエイティブを最低月1回更新し、可能なかぎり毎回ABテストを行います。加えて、動画内容だけでなく配信結果を細かくチェックし、配信設定や予算配分をこまめに最適化します。
具体的には、毎週進捗データを確認して地域別・年齢層・性別ごとの反応を分析し、効果の落ちた属性から反応の良い層へ予算を移します。また、反応率の低いエリアの予算を他の地域に再配分するなど、ターゲティングと配信設計の見直しを週単位で繰り返しています。
ーー動画広告の効果を高めるのにはさまざまな施策がありますが、ひとつだけ施策を絞ることは可能ですか?
大野:一度すでに広告配信が始まっている場合、正直施策を絞るのはとても難しいんです。というのも、改善に向けてどの施策を優先するかは、実際の配信結果に大きく左右されるので。
場合によっては、広告の配信設定を見直す以前に、「広告を出す媒体そのものを変えたほうがいい」という判断になることもあります。「これだけは絶対に効果が出る」と言い切れるような施策は、今のところないんですよね。
ーー単純な話ではないんですね。
大野:そうですね、動画マーケティングの基本は「PDCAをしっかり回すこと」に尽きると思っています。なので、常に改善を繰り返す中で最適な打ち手を探っていくというのが本質ですね。
ーー施策を上手に回すには、最低限確保すべき予算はいくらでしょうか?
大野:最低でもクリエイティブ制作費と広告配信費で300万円〜400万円くらいはご用意いただきたいというのが正直なところです。理想を言えば、1,000万円くらい予算があると、ABテストやクリエイティブの複数制作、ターゲティング調整など、PDCAを回しやすくなります。
社内体制で支える運用最適化
ーー動画広告の運用改善について、企業はどのような工夫をすればよいでしょうか?
大野:安定した運用には、社内で1~2名ほどの担当者を確保することが大切です。最初はマーケティングの知識がなくても問題ありません。工夫というより、基礎から一緒に学びながら運用に関わっていただく体制づくりが、継続的な改善にもつながりやすいと思います。
ーー「基礎から一緒に学ぶ」というと、どんな内容から始めるのが良いのでしょうか。
大野:例えば、動画広告の効果指標であるCPA(顧客獲得単価)やCPC(クリック単価)の言葉からですね。再生数を重視するのではなく、「1再生あたりのコストを下げる」という視点で数字を見られる基礎知識です。知識がないと、代理店に都合のいい説明を鵜呑みにしたり、レポートの中身を理解せず流してしまいがちになるためです。
ーー広告運用の経験が浅い企業こそ、社内での理解とノウハウ蓄積がカギになるのですね。
大野:担当者の方が実際に運用の様子を見たり、質問を通して業者から知見を引き出したりすることで、経験を社内に溜め込んでいくとより良いです。やってきた施策やその結果を記録・マニュアル化していくようなイメージでしょうか。
社内説得する方法

ーー動画運用を開始するには費用もかかるため社内説得の必要があります。数字を並べた資料では納得感を得づらいですが、説得力を高めるためにどのようなプレゼンを行うのが効果的でしょうか?
大野:私自身のプレゼンでは、マーケティング設計、動画クリエイティブの方向性、制作・配信スケジュール、予算など複数の要素を組み合わせて提示して、まずはお客様の事業構造や課題をわかりやすく説明するようにしています。
ーー同じ提案内容でも、聞き手によって注目するポイントが異なると感じますが、“説明の切り口の使い分け”はありますか?
大野:最初に接点を持つのは広報担当やマーケティング担当の方が多いので、その段階では「具体的な数字」や「論理的な根拠」を重視した説明を行います。
一方で、最終的に経営層へプレゼンする局面では、「事業全体の課題感」や「動画を通じて実現したいビジョン」にフォーカスするようにしています。ストーリー仕立てで伝え、最後に「動画を活用することで得られる中長期的な効果」を示すかたちです。この順序で進めると、経営層からは感情的に共感を得やすく、論理的な裏付けも説明しやすくなります。
「名前を売る」ことが全てではない

ーー「名前を売らなければならない」と考え、とにかく露出したい企業も多いと思いますが、別の施策から提案することはありますか?
大野:意外と多いですね。企業の状況やステータスをできるだけ詳しく把握するようにしているのですが、マーケティング施策を行った経験の有無は大切です。特にベンチャー企業であれば、最優先は売り上げを獲得することになると思います。
数百万円かけてでもブランディングを確立したい意図は理解できますが、現時点のフェーズでは動画制作はおすすめできないと率直に伝えることもあります。
ーー単に動画制作を受注するのではなく、「今後、適切なフェーズになったときに動画を作りましょう」というような伴走の対応をされることが多いのでしょうか?
大野:効果が見込めない施策で、こちらとしても責任を負いかねるような場合は、やんわりと「その施策はあまりおすすめできません」とお伝えしたり、「弊社では対応が難しいです」ということをお伝えする場合もあります。
動画制作は「おしゃれな映像を作って終わり」と思われることも多いのですが、本来はマーケティング施策の一部であるべきだと思っています。今抱えていらっしゃる課題にきちんと向き合って、「どんな動画とマーケティング、事業戦略をお考えですか?」というところから始めるのが、動画制作のあるべきスタンスなんです。知識の非対称性が大きい業界なので、企業の事業がちゃんと前に進む、その一助になれるような動画制作が大切です。

調査概要
・3,620名(16.5%)が「動画を活用している」
・14,189名(64.5%)が「動画を活用していない」
・4,191名(19.1%)が「わからない」

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。
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