暦年贈与の課税対象が3年から7年に改正|併用可能な非課税制度と注意点を徹底解説

松井信行公認会計士・税理士事務所
監修者
最終更新日:2024年05月28日
暦年贈与の課税対象が3年から7年に改正|併用可能な非課税制度と注意点を徹底解説
この記事で解決できるお悩み
  • 暦年贈与の課税対象となる年数とは?
  • 暦年贈与の非課税制度と併用可能な制度とは?
  • 暦年贈与の注意点とは?

相続を受ける場合は、相続開始日から令和5年までは3年、令和6年からは7年以内の暦年贈与が課税対象となります。1年間の贈与額が110万円以下であれば暦年贈与の対象となり、贈与税や相続税を支払う必要がありません。

当記事では、相続税を節税したいと考えている人に向けて、相続税の法律における暦年贈与の考え方を解説します。暦年贈与の注意点や事例も解説しますので、参考にしてください。

記事を読み終わったころには、暦年贈与の課税対象額がイメージでき、相続税の準備ができるようになるでしょう。

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暦年贈与とは?|相続財産に加算される贈与

家系図

暦年贈与とは、相続が開始する前に発生した贈与のことで、相続財産に加算されます。亡くなる直前に贈与を受けて相続税の対象から逃れる行為を防ぐために制定された法律です。

暦年贈与の課税対象期間は、令和5年までは3年間でしたが、令和6年からは7年間に改正されました。令和5年までの制度と令和6年からの制度を比較して解説します。

令和5年までの贈与|相続開始日から3年以内

令和5年までの旧制度では、相続開始日から3年以内に贈与を受けた財産が課税対象として相続税に加算されます。

1月1日から12月31日までの間に、贈与を受けた財産額が110万円以下の場合は、贈与税は加算されません。たとえば、相続開始日が令和5年8月1日で、令和4年1月1日から12月31日までに受け取った財産が80万円であれば、令和4年分は非課税となります。

1年間で110万円を超える場合は、超えた分に対して贈与税が加算されるため、脱税にならないよう正しく計算しましょう。

令和6年からの贈与|相続開始日から7年以内

法改正により、令和6年以降に贈与を受ける場合は、相続開始日から7年以内の財産が課税対象となります。相続税に対する加算対象が3年から7年に延び、納税の負担が増します。

令和12年末までは、相続開始日から3年以内か、令和6年1月1日の短い期間が対象期間です。たとえば、令和10年3月1日が相続開始日の場合は、令和6年1月1日から令和10年3月1日までが暦年贈与の対象期間です。

年間110万円までの贈与には、贈与税・相続税の対象外となります。年間110万円を越える贈与は、累計で2,500万円まで贈与税の対象ではありませんが、相続財産には加えるため相続税の対象です。

暦年贈与の非課税制度と併用可能な4つの制度

ポイント_!

暦年贈与の非課税制度と併用可能な制度は、以下の4つです。

  1. 贈与税の配偶者控除
  2. 結婚・子育て資金の贈与
  3. 教育資金贈与
  4. 住宅取得等資金贈与

これらの制度に該当する場合は、相続開始7年以内の贈与であっても相続税の加算対象になりません。

1. 贈与税の配偶者控除

贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で適用できます。居住用不動産や居住用不動産を取得する資金を贈与した場合、最大2,000万円の非課税が適用できる制度です。適用条件には、居住用不動産の所有権移転登記や資金の振込みなどの証拠が必要です。

配偶者控除を適用すると相続税の節税になりますが、相続税で調整する趣旨のもと以下のように条件が厳しくなります。

  • 被相続人からの相続や遺贈によって取得した財産の価額に、贈与を受けた居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の価額を加算して、相続税の課税価格を算出すること
  • 贈与を受けた居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭に係る贈与税の額を、相続税の計算上控除すること
  • 相続税法第19条第1項第2号(配偶者の税額の軽減)に規定する配偶者控除額から、贈与を受けた居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭に係る贈与税の額を控除した金額までしか配偶者控除が受けられないこと

居住用不動産や資金の贈与は、夫婦間での合意が必要です。居住用不動産は、贈与者または受贈者が居住しているか、受贈者が居住する予定である必要があります。

参照:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」

2. 結婚・子育て資金の贈与

結婚・子育て資金の贈与とは、直系尊属から一括で結婚・子育て資金として贈与を受けた場合、最大で1,000万円が非課税となる制度です。

結婚資金は300万円が上限になります。適用するためには、戸籍の謄本または抄本や住民票などの証拠が必要です。証拠となる書類は、申告時の添付書類として必要になるため、早めに取得しておくとよいでしょう。

結婚・子育て資金として贈与された財産は、結婚や子育ての目的に限ってのみ使用できます。結婚・子育て資金管理契約を締結する日において、18歳以上50歳未満の人に限る点にも注意します。一括で贈与されたことを証明する書類や領収書は必ず保管しておきましょう。

参照:国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」

3. 教育資金贈与

教育資金贈与とは、直系尊属から一括で教育資金として贈与を受けた場合、最大で1人あたり1,500万円が非課税となる制度です。

塾の費用は500万円までです。教育資金管理契約を締結する日において、贈与を受ける人が30歳未満の人に限ります。適用するためには、学費を支払った際の振込明細や領収書を証拠として残しましょう。

教育資金として贈与された財産は、教育に必要な検定料や学費などに限って使われる必要があります。一括で贈与を受けた場合には、証明する書類や領収書の保管が必要です。一般的には、領収書は贈与を受けた資金がある金融機関の窓口で提出し、同じ金額を受領する流れです。

参照:国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」

4. 住宅取得等資金贈与

住宅取得等資金贈与とは、直系尊属から住宅取得等資金として贈与を受けた場合、最大で1,000万円が非課税となる制度です。利用するためには、取得する住宅の広さや性能の条件があり、不動産登記簿謄本や領収書などの証拠を残す必要があります。

住宅取得等資金贈与は、2023年の「令和6年度 税制改正大綱」により延長が決定し、2026年末まで適用されます。贈与を受ける側には所得制限があるため注意が必要です。資金贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下である必要があります。

参照:財務省ホームページ「令和6年度税制改正の大綱」

暦年贈与における4つの注意点

ビジネスイメージ

暦年贈与における注意点は、以下の4つです。

  1. 財産が暦年贈与の対象になるか確認する
  2. 生命保険の受取人変更は贈与対象になる
  3. 暦年贈与の契約書を作成する
  4. 申告方法と期限に注意する

財産として価値のあるものが暦年贈与の対象になりますが、判断に迷うときは専門家への相談も検討しましょう。

1. 財産が暦年贈与の対象になるか確認する

暦年贈与の対象は現金・預貯金・株式・不動産など、一般的に価値があるものです。評価方法は市場価格により異なり、株式は取得価額ではなく時価により評価します。贈与の時期は、贈与された財産の所有権が移転した日です。

土地の評価方法は路線価方式と倍率方式の2種類があり、路線価が定められている地域で適用します。路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1平方メートルあたりの価額です。路線価を土地の形状や利用状況などに応じた補正率で補正した後に、土地の面積を乗じて評価します。

倍率方式は、路線価が定められていない地域で適用する方法です。土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価します。

2. 生命保険の受取人変更は贈与対象になる

生命保険の受取人を変更した場合は、贈与とみなされ申告や納税が必要になる可能性があります。生命保険の受取人を変更した場合は、死亡日前7年以内であれば生前贈与加算の対象です。

契約者の名義変更をした場合は、贈与とみなされません。契約者が保険契約を解約し解約返戻金を受領した場合は、受領した解約返戻金相当額の保険料を支払った人からの贈与により、取得したものとみなされます。

3. 暦年贈与の契約書を作成する

暦年贈与した場合、トラブルを防ぐために受贈与者間で贈与契約書を作成しましょう。受贈与者の氏名・住所・続柄、贈与された財産の種類・数量・金額、贈与の時期の記載が必要です。

贈与契約書の作成には、以下のメリットがあります。

  • 贈与者や受贈者の死亡後に遺産相続トラブル防止
  • 贈与が履行されたことの証明
  • 贈与税や相続税の税務調査対策

贈与契約書の様式や書式、手書き・パソコンなどは問われませんが、わかりやすい記載が必要です。

数字は細かな単位まで正確な記載が必要であり、計算ミスや誤字脱字が無いように注意しましょう。たとえば「現金300万円」「不動産103.67平方メートル」など、細かな数値までの記載が重要です。贈与財産の内容によっては、収入印紙を貼付しましょう。

4. 申告方法と期限に注意する

暦年贈与した場合、原則として贈与税の申告や納税は不要です。非課税制度や控除制度を利用し、110万円を超える部分があった場合は、贈与税の申告と納税をしなければなりません。贈与税の申告期限は、贈与された年の翌年3月15日までです。

申告方法は、以下の3つです。

  • e-Tax(電子申告)により国税庁ホームページで作成した申告書をはじめインターネットで送信する方法
  • 郵便または信書便により住所地の所轄税務署または事務処理センターに送付する方法(通信日付印により表示された日が提出日)
  • 住所地の所轄税務署の受付に持参する方法(税務署の時間外収受箱への投函により提出)

暦年贈与2つの事例

暦年贈与の事例を2つ紹介します。

  1. 親から子へ毎年100万円ずつ贈与する場合
  2. 祖父母から孫へ教育資金として一括で300万円贈与する場合

贈与税と相続税の仕組みを理解していると、贈与の上限額を意識して家族間の資産活用ができるでしょう。

事例1. 親から子へ毎年100万円ずつ贈与する場合

毎年100万円ずつ暦年贈与した場合、非課税制度や控除制度を利用しなくても贈与税の申告や納税が不要です。令和6年からは親が亡くなった日から7年間をさかのぼって算出しますが、令和13年までは経過措置が取られています。

たとえば、親から子へ毎年100万円ずつ10回にわたり暦年贈与したと仮定しましょう。親が亡くなり、子の相続財産は親から受けた暦年贈与のうち、相続開始前7年以内に受けた700万円が加算対象です。もし加算額に対応する贈与税額を納付していれば、相続税から控除されます。

相続税額は、ほかの相続財産や法定相続人数により変わります。

事例2. 祖父母から孫へ教育資金として一括で300万円贈与する場合

一括で300万円を暦年贈与した場合、110万円を超える部分は贈与税の申告と納税が必要です。教育資金贈与の制度の適用で、最大で1,000万円まで非課税扱いになります。

祖父母から孫へ300万円を教育資金として暦年贈与し、孫は贈与を受けた年の1月1日に18歳以上である場合は非課税にできます。非課税扱いのため贈与税の申告や納税は不要であり、祖父母が亡くなったときには、教育資金贈与した財産は孫の相続財産に加算されません。

残額がある場合には、相続により取得したものとして扱われます。

まとめ

相続人が亡くなる前に受けた贈与額が110万円以下であれば、贈与税が科せられません。教育資金贈与や住宅取得等資金贈与などの制度と組み合わせることで、贈与税・相続税の節税につながるでしょう。

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監修者のコメント
松井信行公認会計士・税理士事務所
所長 松井信行

大学卒業後、東京の大手ITベンダーや監査法人にて事業企画職や会計士としての実務に長年携わる。その後、自身が相続を経験したことを契機として2014年に相続専門の個人会計事務所を地元で開業。現在は阪神間(主に神戸市・芦屋市・西宮市)で相続税をはじめとする各種税務申告や生前の相続対策相談など、相続に纏わる様々なサービスを数多く手掛けている。

記事にも解説されている通り、生前に暦年課税制度の非課税枠(110万円)を活用して財産を子世代や孫世代に毎年少しづつでも移転させることは、相続までに比較的時間に余裕がある方にとって将来の相続税負担を抑える上ではとても有効な手段の一つです。

それに加えて、住宅取得資金や教育資金等を一括で贈与した際の非課税制度を利用した贈与財産は、その後贈与者に相続が生じたとしても一部の例外を除き生前贈与加算の対象にはなりませんので、相続までにあまり時間がない方にとっても非常に有用な方法と言えます。

尚、現行の制度で相続税を計算する際の生前贈与加算は、相続等により財産を取得した者が被相続人の相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産が対象となっています。

現在この加算期間の延長(例えば5年〜10年等)が政府・税制調査会で検討されており、早ければ令和5(2023)年度税制改正によって来年度から施行となる可能性がありますので、この点は今後の動向に十分注意する必要があります。
比較ビズ編集部
執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。

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