360度評価の失敗を防ぐには?失敗例とその要因・成功へのポイントを解説!
- 360度評価の失敗例は?
- 360度評価はなぜ失敗する?
- 360度評価を成功させるためには?
360度評価とは、関係性の異なる複数の評価者が、対象となる1人の従業員を評価する人事評価手法のことです。人材マネジメントの観点から導入メリットは大きいですが、運用を間違うと社内の生産性を低下させるおそれもあります。
本記事では360度評価の失敗例や原因、成功に導くポイントなどを紹介します。実際の成功事例も解説するため「360度評価って実際どうなの?」とお悩みの担当者の方はぜひ参考にしてください。
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360度評価で起こりがちな失敗例
360度評価は、公平性や人材育成を強化できる一方で「導入に失敗しやすい」とされる人事評価制度でもあります。360度評価のよくある失敗例は以下のとおりです。
- 評価を気にして社内コミュニケーションに支障が出る
- 評価に納得できない従業員のモチベーションが低下する
「多方面からの評価」の弊害から、通常の人事評価とは異なる失敗が生じます。
評価を気にして社内コミュニケーションに支障が出る
360度評価の導入により上司・部下の間に遠慮が生じると、社内コミュニケーションに支障をきたします。さまざまなメンバーから多面的に評価を受けることが裏目に出て、以下に挙げる逆のインセンティブが働く懸念があるためです。
- 「部下から嫌われると、悪い評価を付けられかねない。機嫌を損ねないように、部下の評価は甘めにしておこう。」
- 「上司の指示は抽象的でわかりづらい。しかし指摘をしたことが自分だとバレたら評価を下げられるだろう。正直なことは言わずにいい評価を付けておいたほうが得だろう。」
上記のような忖度が社内に蔓延すると、メンバー間における適切な指導や率直なフィードバックが困難になります。従業員の成長や生産性向上も見込めなくなるため、ビジネスの遂行・成長を阻害する重大な要因となり得るでしょう。
360度評価による社内コミュニケーション不全は、典型的な失敗例です。
評価に納得できない従業員のモチベーションが低下する
360度評価は「勤務態度」や「意欲」などの数値化できない定性的な評価基準を用いるため、評価者の主観が結果に大きく影響します。以下は、360度評価によくある不当な評価例です。
- 定量的な実績は申し分ないにもかかわらず、部下から嫌われているため低評価を付けられる
- 馬が合わない同僚から「人間性に問題がある」など悪口とも取れる評価を付けられる
評価を行う際のルールを明確化させておかなければ、従業員にとってショックを受ける無益な評価が蔓延しかねません。360度評価は、運用次第で従業員のメンタルヘルスに支障をきたしたり、離職を招いたりする危険性をはらんでいます。
360度評価が失敗に終わる4つの要因
360度評価が失敗に終わる根本的な原因は、主に以下の4点です。
- 導入目的の説明が不十分
- 評価結果が報酬に反映される
- 設問が多すぎる
- 評価後のフォロー・フィードバックが低質
失敗の原因を正しく把握し、成功の秘訣を探りましょう。
1. 導入目的の説明が不十分
導入目的を明確化し、従業員に周知徹底させなければ360度評価は失敗します。「何のために評価をするのか」「どのように評価をするのか」を従業員が理解していないと、的外れな評価が続出するためです。
たとえば「従業員のパフォーマンスを最大化させる」という目的のもと360度評価を導入したケースを考えてみましょう。目的に対して従業員の理解が得られている場合に期待できるコメント例は以下のとおりです。
- 部下へ「セミナーや交流会への参加など、日々スキルアップに取り組む姿勢が感じられる。今後は習得した知識を行動に移せるよう期待する。」
- 上司へ「コンディションを敏感に察知してくれ、自分にあった業務を割り振ってくれていることが伝わる。業務上の指示も的確であるため、スムーズに業務遂行できている。」
- 同僚へ「社内のコミュニケーション促進を図りイベントの企画を積極的に行っている。」
一方で、目的が周知徹底されていない場合は以下のような「主観的な感想」が発生します。
- 「同僚や部下との会話が少ない。周りが見えていないと思う」
- 「部下に優しすぎる。もっと厳しくしないと部下がつけあがると思う」
- 「営業に向いていないと思う。本人も自信がないと言っていた」
上記の評価は目的達成のために役立たないばかりか、社内の人間関係悪化を招きます。360度評価を導入する際は、目的をあいまいにせず従業員に明確な説明をすることが大切です。
2. 評価結果が報酬に反映される
評価の結果を昇給や賞与と結びつけると、360度評価の導入は失敗しやすくなります。評価が報酬に直結するとなると、誰しも「なるべくいい評価を得たい」と感じるのは自然なことです。結果として、以下のように忖度や悪意が働く可能性を高めます。
- 「少しでもいい評価をもらいたいから、上司の評価を高めにつけておこう。」
- 「出世のためには同僚が邪魔。実績は自分より上だが低評価をつけてやろう。」
給与や等級には「業績・能力評価」など定量的な評価基準を反映し、360度評価の利用目的は「人材育成」に絞ることをおすすめします。
3. 設問が多すぎる
評価シートの設問が多すぎることも、360度評価が失敗に終わる原因の1つです。1人が複数人の評価を行う360度評価では、設問数やフリーコメントの多さは作業負担につながります。日常業務の合間に負担の大きい作業を課すと、どうしても「いい加減さ」が発生するでしょう。
流れ作業的に評価を行う従業員が増えると、360度評価の導入意義がなくなるばかりか、不当な評価も発生しかねません。設問数や内容の偏りに十分配慮し、従業員のモチベーションを削がない設問設計が必要です。
4. 評価後のフォロー・フィードバックが低質
360度評価は、評価後の適切なフォロー・フィードバックがあってこそ成功するものです。せっかくの評価が人材育成として活用されなければ、360度評価を導入する意味がありません。評価の結果をそのまま従業員に伝えるだけではなく、以下の内容を考慮してフォローを行う必要があります。
- 受けた評価を行動に落とし込めるようアクションリストを作成する
- 定期的に行動の達成度合いをチェックする
- ネガティブな評価をポジティブな言葉に変換して伝える
360度評価を失敗させないためには、フォロー・フィードバックの担当者に対する教育も重要です。即時的な効果を期待しすぎず、中長期的な観点でフィードバックを継続しましょう。
360度評価を成功に導く4つのポイント
360度評価の失敗を回避し、導入を成功に導くポイントは以下のとおりです。
- 目的とガイドラインを明確にする
- 従業員に対する説明会を実施する
- 一連のスケジュール計画を立てる
- 適切な設問を設計する
360度評価の運用中に思うような効果が得られない場合にも、以下で説明する事項を満たしているか確認してみてください。
1. 目的とガイドラインを明確にする
まずは360度評価の目的を明確にします。「だれを」「どのように」評価するのか、結果をどのように活かしていくのかをはっきりさせましょう。360度評価の成功には、参加する従業員の「責任感・当事者意識」が必要不可欠です。導入目的や狙う効果、評価方法などをガイドラインとしてまとめ、従業員に周知徹底させましょう。
目的がなかなか定まらない場合は、360度評価のメリットを生かす施策を考えることも有効です。360度評価のメリットは以下を参考にしてください。
2. 従業員に対する説明会を実施する
ガイドラインの策定後は360度評価に関する説明会を実施し、従業員が納得するまで何度でも説明する機会を設けましょう。従業員への説明における注力ポイントは以下のとおりです。
- 匿名性が保証されていることを伝え、安心して率直な評価をつけるよう促す
- 合同説明会とあわせて個別相談の機会も設ける
- 従業員が多い場合は説明会を複数回にわけて実施する
360度評価は実施後のフォローが肝心であるため、フィードバック担当者への研修も欠かさずに行います。
3. 一連のスケジュール計画を立てる
1人ひとりの従業員にていねいなフィードバックを与えることを前提に、360度評価のスケジュールを逆算しながら管理しましょう。導入後の大まかな流れは以下のとおりです。
- 制度の説明会を実施する
- 評価結果を集計し、結果をフィードバック担当者に共有する
- 結果をもとにフィードバック面談を行う
- パフォーマンス向上のためのアクションプランを設計する
- 行動の達成度合いを振り返る
上記をベースに、自社の目的にあわせてカスタマイズしながらスケジュールを設計してみてください。
4. 適切な設問を設計する
360度評価の導入目的に沿った設問を設計します。設計の際、必ずおさえたいポイントは以下のとおりです。
- 設問数は30問以内におさめる
- 1人あたりの評価が15分程度で完了するボリュームにする
- 選択式をメインにし、フリーコメントの設問は数問にしぼる
不当な評価を防ぐため、評価項目はできる限り私情を挟む余地のないよう設計することが重要です。自社で設問を設計することが難しい場合は、人事制度コンサルタントに相談するのも1つの方法です。数々の事例にもとづいた、効果的なアドバイスが得られます。
成功事例にみる360度評価の運用方法
360度評価を効果的に活用するためには、制度面・運用面を自社の実情にあわせてアレンジすることが大切です。以下では、360度評価の活用事例を3社分紹介します。
トヨタ自動車株式会社|評価対象を管理職に限定
トヨタ自動車では課長級以上の管理職1万人に適性判断を行うため、360度評価を導入しました。「人間力」を重視した評価基準によりマネジメント適性の有無を判断し、適性がないと判断された社員の人事異動や昇格を見合わせました。
背景にあるのは、2017年に発生した「上司のパワーハラスメントによる男性社員の自殺事件」です。360度評価は「適性のない管理職を排除し、2度とパワハラによる被害者を出さない」という明確な目的のもと導入・運用されています。
ネガティブな動機ではあるものの「目的の明確化」が成果に直結した事例です。
株式会社ディー・エヌ・エー|記名制を採用
株式会社ディー・エヌ・エーはAI・ゲーム・オートモーティブなどの事業を幅広く展開する企業です。DeNAが採用する「360度フィードバック制度」は、被評価者をマネージャーに限定して運用されています。
運用面では以下の特徴があります。
- 記名制が採用されている
- 評価結果は給与・等級とは切り離されている
導入目的は「マネージャーの成長を促すこと」に特化しており、評価結果を「部下からの贈り物」と受け止めるマネージャーが多く、制度が社内に浸透している様子が伺えます。
GMOインターネット株式会社|等級と完全に連動
インターネット関連事業を幅広く展開するGMOインターネット株式会社では、360度評価の結果を等級に反映させています。一般的に難しいとされている「等級との連動」が成功している理由は、主に以下の3点です。
- 6段階の役割等級が全社的に公開されている
- 役職ごとの報酬を全従業員が認識している
- 役職にふさわしいか否かを判断するための明確な評価基準が存在する
導入により従業員の責任感が高まったことに加え、人事評価の「公平性」に対する従業員満足度を高水準でキープしています。
まとめ
本記事では、360度評価の失敗例やその要因、成功ポイントなどを紹介しました。360度評価制度を成功させるポイントは「適切な制度設計と運用」です。制度設計には知識・スキルが必要となるため、自社設計が難しい場合は専門家のアドバイスを仰ぐことも大切です。
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大学卒業後、国内金融機関にて人事総務部門配属。以後、大手グローバルコングロマリット企業や老舗外資系企業の人事部門において、通算30年以上にわたり多様な経験を積む。企業の買収合併による統合インテグレーションも3度経験。小規模同士の合弁など、早期統合効果を狙う際の計画策定、実行の支援にも強みがある。
つまり、この評価の狙いは、組織業績とリンクした個々の社員の成績評価と違い、組織の中でより良いドライバーになることが求められる、主として中間管理職にあたる社員である被評価者の気づきを促し、組織のコミュニケーション活性化や、見えない組織的な壁の打破に役立て、風通しのよい組織風土を構築、維持することが主眼であること、にあるからです。
したがって、被評価者はもとより、評価者にとっても負担がかかるこの制度を実施するにあたっては、評価者が誰であるかを特定されないように、最大限の配慮が必要であり、被評価者を選定する際にも、当事者自身が、評価結果を前向きに受け止めることができるように、事前の配慮や詳細な説明が必要であるということです。
また、それに先立ち、この評価を実施することに対して、当事者がみなポジティブにとらえることができるように、トップや上位層からの丁寧なコミュニケーションが必要であることは言うまでもありません。
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