在庫管理システムの全てがわかる!現役エンジニアが徹底解説

多くの事業者にとって、在庫の正確な把握はビジネスを行ううえでの必須業務です。物理的な物の製造や販売に関わる全ての事業者にとって必要となるのですから、そのニーズは絶大です。しかし、いつまでたっても実在庫とデータが合わない、商品がどこにあるかわからない、といった問題がどこからか聞こえてきます。そんな在庫の管理をコンピュータやIT技術を使って行うのが在庫管理システムです。本記事では在庫管理システムの目的、概要からシステム構築の費用相場、発注時のポイントなどを解説します。
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在庫管理システムとは
在庫管理システムとは名前の通り企業の資産である在庫(商品、部品、原材料、設備など)を管理するシステムです。では、在庫管理システムは何を目的に、どのような機能で構成されるのでしょうか。
目的
在庫管理システムの主な目的は、在庫がいつ、どこに、何個あるかを知ることです。ビジネスの基本として、物を作ったり、売ったりするのに在庫の把握は欠かせず、在庫を把握することにより販売時の納期、配送料を決めたり、製造時の数量の調節等を行います。
帳簿やEXCELで在庫を管理している場合でも、ある程度は在庫の情報を管理することができます。しかし、ビジネスのスピードアップにより、在庫についてのより詳細な情報をスピーディに知りたいシーンが増えています。
物によっては一つ一つの商品を、型番ではなく、製造番号レベルで知りたいこともあります。また、大量の発注が入った場合、何個は在庫でまかなえて、何個は製造後出荷となるかといった、リードタイムや製造の計画等に繋げるための情報を知りたいこともあるでしょう。
お客様からできるだけ急いでといわれた場合には、全国のどこの拠点にある在庫がお客様に一番早く届くのかが知りたいはずです。
ただ、在庫の有無がわかるだけでなく、製造のスケジュールを立てたい、仕入のスケジュールを立てたい、商品の動きを知って長期滞留在庫や売れ筋商品の分析をしたい、商品のトレーサビリティを行い顧客満足度を高めたい等のさらなる価値を生み出すのが在庫管理システムなのです。
在庫管理業務の機能
在庫管理システムのメインとなる機能を下記にあげます。在庫の出入りと在庫データの管理機能です。
入荷 | 必要な場合、仕入や生産情報システムと連携 |
---|---|
出荷 | 必要な場合、販売や物流情報情報システムと連携 |
在庫データ | 帳票出力、在庫修正など |
棚卸 | 棚卸、棚卸帳票 |
また、在庫管理システムには親和性が高く業務効率化のために拡張可能な機能があります。メインの在庫管理機能に拡張機能を追加することで、倉庫管理業務が可能となるため、倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)とも呼ばれます。
在庫の配置(ロケーション)管理 | 倉庫などの中でも、どこに何が置いてあるかを管理。商品の保管場所の棚の列番号を最大3次元で定めて利用する |
---|---|
マスタ管理 | 商品他のマスターデータ登録、編集 |
検品 | 入出荷時のピッキング、返品、棚卸の各業務における検品の自動化 |
欠品管理、自動発注 | 欠品を監視し、自動的に発注(とその支援)を行う |
返品 | 返品の受付、在庫計上 |
在庫データ分析 | 在庫データの滞留、動きを継続的に蓄積し、傾向を見いだす。業務効率化や生産計画の策定に利用可能 |
ここまでに上がってきた在庫管理システムの構築にはハードウェアが必要となります。利用環境、利用人数、業務の連続稼働の重要性などにより、必要となる機器は変わります。
必須機器
- メインのコンピュータ(サーバー、クラウド環境)
- システム利用のための端末(PC,タブレット、ハンディターミナル)
仕様に応じて必須となる機器
- バーコードリーダー
- RFIDリーダー
- HHT
- プリンタ
- ラベルプリンタ
- RFIDプリンタ
在庫管理システムを導入した方が良い状況
在庫の管理は扱うものの数量、種類が少ない間は、人間系での確認+Excelで管理していることが多いです。一人の人間が全ての在庫を管理しきれる規模なら、システムの導入は不要かもしれません。
ビジネスが大きくなり、扱う物の数や種類が増えると、在庫管理業務は煩雑になってきます。複数人で在庫の管理をする場合、実在庫と帳簿上のデータに差異が発生する場合は、在庫管理は煩雑になってきます。
このような場合には、業務の正確性向上、効率化、作業コスト削減などの面から、システム導入をオススメします。
また、在庫管理に限らず、システム導入の検討を行う場合は費用対効果を見定める必要があります。システム導入コストが費用対効果に見合わない場合は、何を実現したいのか、要件から再確認してみましょう。
それ以外にも、外的要因でシステム導入を検討した方が良い場合があります。他の販売、出荷、顧客管理などのシステムが存在し連携可能な場合です。在庫管理をシステム化し、他のシステムと連携することで業務、部門の壁を越えた効率化が見込めます。
クラウド/パッケージ/オンプレミス(独自システム構築)の違い
システムを導入を考える場合、方式や環境といったものを決めていけなければなりません。ここでは大まかに三種類の方式、環境について概要とメリット・デメリットを説明します。
- クラウドサービスの利用(SaaS)
- パッケージ製品の利用(オンプレミス)
- 業務に合わせた独自システムの構築(オンプレミス)
ここでいう、クラウド/オンプレミスというのはシステムをどこで動かすかという環境の違いです。クラウドサービスとはインターネット上に別の事業者が持つ環境、システムを利用する方式です。オンプレミスの場合は自社でサーバー他のハードウェアを方式となります。
オンプレミスでは、さらにパッケージ製品と独自システムの構築に分かれます。パッケージ製品はよくある業務をシステム化し、完成させてパッケージとして販売しているものです。独自システムの構築は、ここでは業務の要件にあわせてシステムを開発することを指しています。
クラウドサービス利用のメリット・デメリット
メリット
- ハードウェアは利用端末以外用意しなくてよいため、初期投資やハードウェアメンテナンスは比較的安価で済む
- 一般化されたシステムのため、よくある業務はコストを抑えて利用可能
- インターネット接続環境がある端末ならばアクセスでき、複数端末での利用も可能
デメリット
- 継続的に費用が掛かる。システム利用が増えると利用料金も増える場合もある
- 業務上の機密情報となりえるデータをクラウドサービスに預けることになる。ハッキング、情報漏洩等のリスクは高い。
- 拡張性は低い。バーコード、RFIDなどと組み合わせて現物管理するには一工夫必要
- 柔軟性は無く、自社業務に合わせたカスタマイズ、改修などはできないことが多い
- クラウドサービスの運用停止(メンテナンスなど)やネットワーク切断に業務が影響される
パッケージ(オンプレミス)のメリット・デメリット
メリット
- 独自システム構築よりは安価なことが多い
- 買い切りや年単位のライセンスなどの契約形態が選べる
- 一般化されたシステムのため、よくある業務はコストを掛けずに利用可能
デメリット
- 柔軟性は低く、自社業務に合わせた機能追加、カスタマイズ、改修が不可能だったり、大きなコストがかかることもある
- パッケージの更新に影響を受ける
- 独自にシステム構築した場合と同様にハードウェア等の導入、運用が必要となる
オンプレミスで独自システム構築のメリット・デメリット
メリット
- 業務に合わせて柔軟なシステム開発が可能
- HHT(ハンディ端末)、RFID等デバイスとの組み合わせも自由にでき、大きな効率化を図ることも可能
- 拡張性が高く、機能の追加はしやすい
デメリット
- コストは構築するシステムによっては高価になる
- 規模によっては開発期間が長期的になることもある
- ハードウェアやサーバーの運用、保守業務が必要となる
在庫管理システムの一般的な費用相場
先にあげた三つの方式で価格帯は様々です。もちろん機能の充実性、使いやすさといった面でも費用は変わってきます。
クラウドの在庫管理システムを利用する場合、多くが期間(および使用量、使用人数)による課金制となっています。月額や年額といった単位で支払いを行う形です。その価格はシンプルなものでは月額1000円前後から、大規模なビジネスの現場で利用可能な物では月額数万円〜が主流のようです。
パッケージ製品を利用する場合、パッケージ製品本体価格とカスタマイズ費用、セットアップ費用、ハードウェア等の設備費用が必要となります。パッケージ本体の価格は幅が広く、電化製品店で売っているようなシンプルな物では1万円以下から、高機能でシステム連携機能なども充実したものは最大で百万円単位の製品もあります。
オンプレミスで独自システム構築を考えた場合は、SIerやシステムベンダーと呼ばれる業者に開発を依頼する形となります。この場合、システムで実現することを決める要件定義(仕様定義)、設計、開発、試験といった各工程を実施するための工数から料金が決まってきます。
システム構築は実現機能や方式により複数のレベルの価格が考えられます。シンプルな在庫管理システムを構築する場合を考えると、ソフトウェア開発費用は下記が想定されます。※ハードウェアや設備費用は除く
ACCESSでの簡易なシステム構築
開発費用は30万円〜、多人数での同時利用には不向きです。
Webやクライアントサーバーでのシステム構築
開発費用は50万円〜、FWやオープンソースを利用してコスト削減できる可能性があります。また、費用をかけて独自の在庫管理システム構築を行う場合は、販売管理システム等との連携や拡張して倉庫管理システムとする場合も多いです。
※FW:システム開発のひな型、オープンソース:ソースコードが公開されているシステム
在庫管理システムの見積例
業務に合わせて独自のシステムをオンプレミスで開発する場合の見積もり例
実現機能
4画面2帳票(検品業務は含めない)
業務 | 画面 | 帳票 |
---|---|---|
入荷 | 入荷登録画面 | ー |
出荷 | 出荷登録画面 | ー |
在庫データ | 在庫メンテナンス画面 | 在庫一覧表 |
棚卸 | 棚卸画面 | 棚卸一覧表 |
開発工程
要件定義→設計→プログラミング→テスト→運用保守
ACCESSでのシンプルなシステム開発
ソフトウェア開発費用 | 60万円 | 0.75人月 |
---|
ACCESSはMicrosoft社のデータベース構築ソフトウェアです。画面や帳票も作ることが可能です。省コストでのシステム開発が可能ですが、多人数での利用などには向きません。
Webシステム(FW利用)
ソフトウェア開発費用 | 100万円 | 1.25人月 |
---|
Webシステムの開発でオープンソースのFWを利用する場合を想定しています。FW(フレームワーク)とは、プログラムのひな型のようななものが決まっていて、その分コストを抑え納期を縮めた開発が可能です。ただし、FW上の制約、有名なFWは脆弱性が狙われる等の課題もあります。
Webシステム(スクラッチ開発)
ソフトウェア開発費用 | 140万円 | 1.75人月 |
---|
スクラッチ開発とは、一からシステムを開発することです。他の開発手法より自由度が高く、要望通りのシステムの実現が可能です。一方で、コストは高めとなってしまいます。
※別途、ハードウェア、設備等に関する費用が必要となります。既存資産の流用なども可能ですので、システムベンダーにご相談ください。
在庫管理システム開発時の注意点
システム開発の初期工程として、要件の定義を行い、実現する機能をきちんと決めておくことが大切です。なんでもできるシステムを作ろうとすると、際限なくコストと時間がかかります。
自社の在庫管理業務を成り立たせるのに必要最小限の機能を見極め、システム開発の範囲を決めておきましょう。それ以外の機能はオプションや追加開発という方法を取ることが出来ます。
システム導入タイミングで、在庫の初期データが必要となります。扱う在庫の量が多いシステムの導入では、業務を止めてシステム導入を行うことが必要となるでしょう。
システムの導入で業務運用が変わる場合は、システム利用者の教育を行っていくことが必要となります。教育計画を立てて、スムーズに業務が実施できるように事前の準備を行わないと、システム導入で見込んだ効率化等の実現は出来ません。
在庫管理システムでは、在庫の数量は直接的に事業者の資産と関わっているため厳密な扱いが求められます。システムを新たに開発する場合は、綿密なテストを行い、あらゆる業務を行っても在庫の数がずれないよう作み、動作確認をしておく必要があります。
総括
在庫の管理は物を扱うあらゆる事業で必須の業務です。システムの導入により、作業効率、作業の正確性、在庫のリアルタイムでの把握などのメリットを見込むことができるため、多くの企業で導入されています。
一方で扱う商品や業務上の特性などにより、一般的な機能では実現しきれないような在庫の管理がされていることも多々あります。業務上有効な仕組みが現状で組み立てられている場合は、無理にシステムに業務を合わせて変えるよりも、業務に合わせたシステムを導入することを検討する必要があります。
在庫管理システムの構築、導入経験があるシステムベンダーに相談してみるのも一つの手段です。

東京工業大学環境・社会理工学院卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。MBA(経営学修士)取得。国内最大手SIerの株式会社NTTデータで大手法人領域(大手流通企業、大手小売企業)の事業開発、事業企画等の業務に従事。米国スタンフォード大学への研修留学を経て、システム/モバイルアプリ開発会社の株式会社GeNEEを創業。
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物販系の会社様にとって、在庫管理は必要不可欠な作業です。今回最もニーズが高いと思われる在庫管理の「ソフトウェア」に閉じてお話をします。在庫管理ソフトウェアの導入にあたっては、以下の4つの観点で選ぶと良いと思います。
1つ目はソフトウェアのタイプについて、です。タイプはクラウド型、非クラウド 型の2つに分かれます。スマートフォンやタブレット端末に慣れている若い会社様でしたらクラウド型を、IT化に若干の抵抗や苦手意識がある会社様には非クラウド型が合うのではないでしょうか。
2つ目は在庫管理ソフトウェアで実現したいことは何か、です。ソフトウェアには在庫管理に関わる様々な機能が実装されています。商品管理だけではなく、販売や仕入、会計業務など、どこまでソフトウェアで賄うかを事前に検討することが大切です。
3つ目はデータ入力機器についてです。データ入力機器にはバーコード機器の他、スマートフォン端末、タブレット端末などがあります。導入検討中の在庫管理ソフトがスマートフォンのみの対応で、バーコード入力機器(ハードウェア)には対応していない、という可能性もゼロではありません。データ入力に使用する機器をどうするか、についてもソフトウェアを導入する前に検討する必要があります。
最後は、ソフトを提供するベンダーのサポート体制です。企業の大切な内部データを社外に出すことになりますので、何か問題が生じたときやソフトウェアの操作が分からない場合など、すぐサポートしてもらえる窓口があるか、しっかりとチェックしましょう。