人件費削減の本質は人件費最適化|失敗しないための考え方・手法を解説!
- 人件費削減にはどのような方法があるのか?
- 人件費削減すると経営にどんな影響がある?
- リスクを最小化して人件費削減するには?
人件費削減というと、整理解雇や従業員の給与削減を思い浮かべる経営者の方が多いかもしれません。たしかに、その意味での人件費削減は、会社の利益を確保するもっとも有効かつ簡単な方法ではありますが、一方で会社の存続を危うくするリスクを伴うことも事実。
単純に人件費削減を断行するのではなく、本質を理解したうえで人件費を最適化していく考え方が必要です。
そこで本記事では、人件費削減にはどのような方法があるのか?一般的な手法や、それぞれの効果・リスクを紹介するとともに、人件費削減に失敗しないための考え方、最適化を進めていくためのステップ・手法を徹底解説!人件費に悩む経営者の方のヒントになります。
人件費削減の理由・一般的な手法
まずは、多くの経営者が人件費削減を検討する理由はなにか?実行に移される人件費削減の手法にはどのようなものがあるのか?おさらいしておきましょう。
経営者が人件費削減を検討するということは、売上に対する人件費が高いと感じているからであり、固定費としての人件費を削減することで、以下の4つのような目的を達成したいからだと考えられます。
- 人件費削減によって利益を増やしたい
- 人件費削減で浮いた余剰資金を設備投資や新規事業に活用したい
- 人件費削減で財務状況を改善し、金融機関からの融資を受けやすくしたい
- 人件費削減を決算に反映させて市場評価を高め、株主に利益を還元したい
短期的な目的だけではなく、高コスト体質を改善するため、長期的な視点で人件費削減に取り組む企業も少なくありません。航空旅客産業の黎明期から業界のリーダーとして君臨していた「Pan American」が、1991年にあっさり消えてしまった理由に「高コスト体質」があったことを世界中の経営者が知っているからです。
人件費の定義
それでは、人件費削減を断行する場合、具体的にメスの入れられる費用にはどのようなものがあるのでしょうか?一般的に人件費といった場合、給与・社会保険を含めた直接的な人件費と、必要経費などの間接的な人件費に分類できます。以下の図にまとめたのでご覧ください。
直接人件費 | 給与・手当 | 賞与 | |
---|---|---|---|
間接人件費 | 社会保険 | 旅費交通費・経費 | 採用・教育費 |
人件費削減の削減の手法・効果・リスク
日本における人件費削減の手法は、こうした直接人件費・間接人件費を削減する方向である場合が一般的。具体的には、以下の5つの手法をメインに、人件費削減を断行する場合がほとんどです。
- 整理解雇・希望退職者を募る
- 従業員の給与を削減する
- 残業を減らす・なくす
- 業務効率化に向けた設備投資・システム化
- アウトソーシングの活用
上述した人件費削減手法のうち、ぁ↓イ砲弔い討癲↓〜の直接的な人件費削減策が併用される場合が多く見られます。これは、直接人件費を削減することによって、間接人件費の削減も期待できるからであり、相乗的なコスト削減効果が期待できるからです。
しかし、それぞれの人件費削減手法は目に見える形での効果が得られる反面、それぞれにリスクがあることも事実。以下からそれぞれ具体的に解説していきましょう。
整理解雇・希望退職者を募る
従業員を整理解雇する、希望退職者を募るなど、いわゆる日本で「リストラ」といわれる人件費削減手法です。従業員の総数を減らすことにより、直接人件費・間接人件費を削減できることから、もっとも高いコスト削減効果が得られる手法だといえるでしょう。
ただし、労働法で手厚く労働者を保護する日本においては、簡単に整理解雇することはできません。整理解雇するためには以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 解雇対象の従業員を選定する合理性
- 手続きの正当性
いわゆるリストラのリスクとして、会社規模・事業規模が縮小し、将来的に安定的なビジネスの継続に支障を及ぼすことも考えられるでしょう。上述したPan Amを例にすれば、整理解雇・事業売却などのリストラ策を強行したことによって事業規模が縮小し、利益を上げられないまま消滅してしまったという経緯があります。
単純なリストラ断行によって残された従業員の負担が増え、モチベーション低下をもたらすことも考えられます。
労働契約法についての参考元は下記リンクをご覧ください。
⊇抄醗の給与を削減する
従業員やパートタイマー・アルバイトの給与を削減し、固定費としての人件費全体を引き下げる人件費削減手法です。従業員からの理解を得る必要はありますが、解雇をともなう施策ではないため、いわゆるリストラよりは実行しやすく一定以上の効果の得られる人件費削減手法だといえます。
一方で、従業員のモチベーションが下がってしまう、優秀な人材が流出してしまうリスクが大きく、結果的に組織の市場競争力が低下してしまう可能性があります。欧米に比べればまだまだだとはいえ、近年の働き方改革によって労働力の流動性は高まりつつあり、優秀な人材は特に「自分の価値を高く売りたい」と考えているからです。
実際、経営者が利益を確保したいと考えているのと同じように、従業員も自身の利益を優先したいはずです。
残業を減らす・なくす
割増料金となる残業を減らす、あるいはなくすことで、予測しにくい流動的な人件費を削減する手法です。働き過ぎを抑制する狙いのある働き方改革関連法案が施行されたことにより、比較的導入しやすい人件費削減手法だといえるでしょう。ワークライフバランスを重視する従業員からは歓迎される場合もあります。
ただし、多くの組織に見られるように、単純に「残業NG」とするだけでは混乱を招いてしまうリスクが高まります。実際の業務量に変化がないにもかかわらず、ただ単に残業は認めないというのでは、サービス残業などの温床となるだけでなく労働法にも抵触してしまうでしょう。
ざ般蓋率化に向けた設備投資・業務のシステム化
業務効率化に向けた設備投資・業務のシステム化を進めることによって従業員の残業を抑制し、生産性向上とあわせたコスト削減効果を狙っていく人件費削減手法です。業務効率化によって余裕が生じた人的リソースを、コア業務に割り振れるメリットがあります。
ただし、設備投資・業務のシステム化を推進するためには、一定以上のコストがかかることも事実。人件費削減を検討する段階となっている組織にとっては、投資する資金的な余裕がない場合も考えられます。状況によっては有効な選択肢にならない可能性もあるでしょう。
アウトソーシングの活用
自社従業員で賄っている業務の一部、または全部を外部の企業にアウトソーシングする人件費削減手法です。請負契約・準委任契約となるアウトソーシングは、自社で賄う場合よりもコストを抑えられることが一般的。給与計算などの繁閑差がある業務などであれば、必要なときだけ依頼できるメリットも得られます。
一方、業務のクオリティは、委託先のアウトソーシング企業に依存します。場合によっては、納品物の品質担保に自社従業員のリソースが必要になるなど、思うようなコスト削減効果が得られないことも。アウトソーシングに頼ってしまうことによって、自社にノウハウが蓄積されないなどの弊害が生じることもあります。
人件費削減の本質は人件費の最適化
ここまでの解説でもお分かりのように、金額のみに着目した人件費削減手法は、会社の存続に大きなダメージを与えかねないリスクが存在します。人件費から最大限を引き出して生産性を高め、売上を増やすことによって人件費を最適化していくことがおすすめであり、人件費削減の本質でもあるといえるでしょう。
では、押さえておきたい人件費削減のポイントについて、以下の3つからそれぞれ解説していきましょう。
- 人材はキャッシュを生み出す経営資産
- リストラの本来の意味は再構築
- 人件費率は企業によって異なるのが当たり前
人材はキャッシュを生み出す経営資産
まず第一に、企業の重要な経営資産とされる「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」のうち、キャッシュを生み出す重要かつ唯一の経営資産が「ヒト」であることを認識する必要があります。モノ・カネ・情報も重要な経営資産ではありますが、それ自体が利益を生み出すわけではありません。ヒトの力があってこそ、経営資産を生かして利益を生み出せるのです。
金額のみに着目した整理解雇・給与削減などの人件費削減手法は、利益を生み出すヒトのモチベーションを著しく毀損します。結果的に生産性が落ち、売上も減るといった負のスパイラルに陥る可能性があります。
逆にヒトのモチベーションを高めて生産性を向上できれば、人件費そのものを削減しなくても売上に対する人件費率を下げられるので、人件費の最適化という人件費削減の本質を実現できます。
リストラの本来の意味は再構築
人件費を最適化していくためには、業務効率化による生産性向上、そして人材を適材適所に配置する臨機応変な組織の再構築が必要。これが、本来の意味の「リストラ」であり、事業規模・従業員数を維持・増強したうえで組織を再構築する「リストラクチャリング(Ristructuring)」が語源です。
日本では、事業規模の縮小・不採算事業からの撤退・従業員数の削減を前提とした、ネガティブな意味での「リストラ」が定着してしまいましたが、本来は、市場環境を見極めながらリストラを繰り返し、ビジネスを拡大していくのが資本主義経済のあるべき姿でしょう。
人件費率は企業によって異なるのが当たり前
とはいっても、生産性向上によって人件費率を下げるには、どのくらいの割合・パーセンテージを目標・基準にすればいいのか?気になる経営者の方が多いかもしれません。しかし、人件費率は業界・業種・ビジネスモデルに応じて変化するものであり、企業ごとに適正な人件費率は異なることが当たり前。他社の動向を気にしていても意味がありません。
それよりは、理念・ミッションからブレイクダウンする形で中長期経営計画を立案し、KGIの達成度合いから適切な人件費を設定していくことが重要です。
人件費を最適化するステップ
それでは、金額に着目した人件費削減ではなく、人件費を最適化していくにはどうすべきなのか?具体的な手順・ステップを紹介しておきましょう。しかし、それほど難しいことではありません。
ポイントとなるのは、効果的に施策を打てるよう早め早めにアクションを起こすこと。経営を圧迫するほど人件費が負担になってからでは、対応策が限られてしまうからです。以下の6つの工程からそれぞれ解説していきましょう。
- 業務の棚卸・課題の洗い出し
- 改善に向けた業務設計
- 業務効率化への設備投資・システム化
- 業務体制の再構築(リストラクチャリング)
- アウトソーシングの活用
- 利益を還元することも重要
ゞ般海涼卸・課題の洗い出し
まずやるべきは、あらゆる自社業務を棚卸し、効率化・生産性を阻むボトルネックがどこにあるのか?課題となる問題点を洗い出すことです。特に目を向けておきたいのが、当たり前に遂行されている日常業務、仕事の進め方の再確認。以前から継続的に行われてきた業務やルーティーン業務に意外な無駄が隠されている場合が多いからです。
たとえば、ありがちなのは「とにかく会議・ミーティングが多い」「報告のための報告が必要」「必要な情報をチーム間で共有できていない」など。この時点では、問題点の大小を問わずに、解決すべきすべての課題を挙げておくようにしましょう。
改善に向けた業務設計
洗い出した業務課題をもとに、改善して解決していくための業務設計を行います。具体的には、理想と現状のギャップを明らかにし、それをどのようにして埋めていくのかを設計していくことが「業務設計」です。たとえば、必要な情報をチーム間で共有できていないのであれば、チャットツールやグループウェアの導入を検討するなどが挙げられるでしょう。
もちろん、業務の仕組み・やり方を変えるだけでも、大きな業務効率化効果が得られる場合があります。効率化によって残業抑制効果も得られます。ツールの導入を検討するにしても、工夫を凝らすことによって改善できることはないか?充分に検討しておくことが重要です。
6般蓋率化への設備投資・システム化
業務設計によって、機械設備・システムの導入が必要であれば検討します。設備投資・システム化には大きなコストがかかりますが、長い目で見れば市場競争力をたかめることになり、人件費率を下げることによる人件費削減効果も得られます。
業務システムの導入であれば、初期費用を抑えながら利用できるクラウドサービスが活用できるほか、中小企業であれば機械設備などの設備投資に補助金・助成金を活用する方法もあります。なかには、雇用確保・賃金引き上げに使える補助金・助成金もあるため、社会保険労務士などの専門家に相談してみるのもおすすめです。
ざ般蛎寮の再構築(リストラクチャリング)
業務体制の再構築(リストラクチャリング)とは、改善に向けた業務設計、それを実現するための設備投資・システム化など、講じた施策を最大限活かしていくため必要なものです。
具体的には、業務設計によって明確になった役割をだれが担うのか、従業員の適性を見ながら適材適所に再配置していくこと、機械設備・システムを定着させて効果を最大限を引き出せるように従業員を教育していくことです。
もちろん、再構築までのステップが完了したからといって安心していてはいけません。動きの激しい現代の市場環境に臨機応変に対応できるよう、財務状況を監視しながら、改善活動を継続していく必要があるでしょう。
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業務体制の再構築を進めるうえで、一部業務をアウトソーシングするという方法を採用する場合も考えられます。すでに解説したように、アウトソーシングには人件費削減の効果がある、費用を流動費としてコントロールしやすいなどのメリットがありますが、デメリットがないわけではありません。
コストだけでアウトソーシング先を決めれば、期待したクオリティが得られない場合もあります。本当にその業務はアウトソーシングすることが最適なのか?しっかりと見極めるとともに、依頼先の選定も慎重に行うべきです。
ν益を還元することも重要
業務効率化・生産性向上によって売上を増やし、人件費率を下げることに成功したのであれば、利益を従業員に還元することを検討しましょう。売上が増えたのにも関わらず、給与・賞与に反映されなければ、従業員のモチベーションを維持することが難しくなるからです。
逆に、売上という数字がリターンとして返ってくることがわかれば、従業員も高いモチベーションを持って業務に当たってくれます。積極性がさらなる生産性向上につながり、売上も増えるという、理想的なスパイラルを生み出すことができるでしょう。
まとめ
人件費削減するにはどうしたらいいのか?経営に与える影響やリスクなどを知りたい経営者の方に向け、本記事では、人件費削減にはどのような方法があるのか?一般的な手法や、それぞれの効果・リスクを紹介するとともに、人件費削減に失敗しないための考え方、最適化を進めていくためのステップ・手法を解説してきました。
ひとことに人件費削減といっても、経営者の方が抱える悩み・目的も異なれば、そのときの経営状況も異なります。一概に、どのような方法が人件費削減に最適なのかはいえない部分もあり、最悪の場合は整理解雇・希望退職・給与削減などを選択せざるを得ないかもしれません。
しかし、本文内でも解説したように、人件費削減の本質であるべきは「人件費最適化」です。業績が好調なときこそ、財務状況をはじめとした自社の状態を客観視し、スピーディーに対策を講じていくことが重要。ときには、外部の専門家の意見に耳を傾けてみることもおすすめです。
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