相続人廃除の条件とは?遺言廃除・生前廃除の流れを徹底解説

竹中啓倫税理士事務所
監修者
竹中啓倫税理士事務所 税理士・米国税理士・認定心理士 竹中啓倫
最終更新日:2023年09月29日
相続人廃除の条件とは?遺言廃除・生前廃除の流れを徹底解説
この記事で解決できるお悩み
  • 相続人廃除にはどのような効果がある?
  • 相続人廃除の条件は?
  • 遺言廃除・生前廃除の流れは?

「財産を相続させたくない人がいる」とお悩みの方、必見です。財産を相続させたくない推定相続人がいる場合、相続廃除を行うことで相続にまつわるすべての権利を剥奪できます。

この記事では、相続廃除の条件や効果、具体的な手続きの流れを解説します。記事を読み終わる頃には、相続人廃除の手続きに着手できるでしょう。

相続廃除における注意点も解説するため、廃除が認められる可能性を高めたい方はぜひ参考にしてください。

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相続人の廃除とは

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相続廃除とは、財産を相続させたくない推定相続人(遺産を相続する予定の人)の相続権を、被相続人の意志に基づき剥奪できる制度のことです。裁判所が「相続廃除もやむを得ない」と認めた場合のみ、推定相続人の相続権を奪うことができます。

相続廃除の対象者や効果を詳しく解説します。

相続廃除を「する人」と「される人」

相続廃除の申し立てができるのは「被相続人」のみです。たとえば「父の財産を素行不良の弟に渡したくないため、兄である自分が相続廃除を申し立てる」ことはできません。

廃除の対象者となるのは「遺留分を有する者」のみです。遺留分とは、相続人に保障された最低限の遺産を受け取る権利を指します。

法定相続人のなかで、遺留分を持つ人と持たない人は以下のとおりです。

遺留分を持つ人 配偶者・直系卑属(子や孫)・直系尊属(父母や祖父母)
遺留分を持たない人 兄弟姉妹

兄弟姉妹の遺留分はないため、兄弟姉妹の相続廃除手続きはできません。兄弟姉妹に遺産を相続させたくない場合、遺言書に遺産を相続させない旨を記載するだけで効力を発揮します。

相続廃除における遺留分は認められない

相続廃除された人は相続権を失うため、被相続人の財産を一切相続できず、遺留分も認められません。

遺留分相続の一例として、被相続人が「長女と次女のうち、長女にすべての財産を相続させる」と遺言書を残したケースが挙げます。被相続人は次女へ遺産を相続させない意志があるものの、次女には遺留分を受け取る権利があるため、長女へ財産の一部を請求できます。

被相続人が次女の相続廃除手続きを行うと、次女は遺留分を含め相続に関するすべての権利を失います。

相続廃除において代襲相続は適用される

相続廃除は、廃除された「本人」のみに有効な手続きです。相続廃除された相続人に子がいる場合、相続権は子に継承されます(代襲相続)。

相続廃除する相続人(A)だけではなく、Aの子(B)にも相続をさせたくない場合は注意が必要です。Bの相続権も奪う場合は要件がさらに厳しくなるため、専門家へ相談することをおすすめします。

相続人廃除の条件

廃除が認められる要件は、民法892条により以下のように定められています。

  • 被相続人に対する虐待や重大な侮辱がある場合
  • 推定相続人にその他の著しい非行がある場合

詳細や裁判例を解説します。

被相続人に対する虐待や重大な侮辱がある場合

「虐待」とは、肉体的・精神的問わず耐えがたい苦痛を与える行為を指し「重大な侮辱」とは、名誉や感情を害する行為を意味します。

「虐待」が認定された裁判例は以下のとおりです。

妻の遺言執行者が夫を相手方として申し立てた推定相続人廃除申立事件において、夫は、末期がんを宣告された妻が手術後自宅療養中であったにもかかわらず、療養に極めて不適切な環境を作出し、妻にこの環境の中での生活を強いたり、その人格を否定する発言をするなどしており、このような行為は虐待と評価するほかなく、その程度も甚だしいところ、妻は死亡するまで夫の離婚につき強い意志を有し続けていたといえるから廃除を回避すべき特段の事情も見当たらないとして、その申立を認容しました。(釧路家裁北見支部平成17年1月26日審判)

引用:大阪遺言・相続ネット

推定相続人にその他の著しい非行がある場合

「著しい非行」とは、虐待や重大な侮辱と同等の不義を指します。犯罪や財産の浪費、不貞行為、素行不良などが繰り返された場合は「著しい非行」と認められやすくなります。

下記は「著しい非行」が認められた裁判例です。

遺言執行者からの推定相続人の廃除申立を却下した審判に対する即時抗告審において、相手方の行為は、客観的には、被相続人の多額の財産をギャンブルにつぎ込んでこれを減少させた行為と評価するしかなく、その結果、被相続人をして、自宅の売却までせざるをえない状況に追い込んだものであり、被相続人から会社の取締役を解任されたことを不満に思い、虚偽の金銭消費賃借契約や賃貸借契約を作出して民事紛争を惹き起こし、訴訟後も被相続人と敵対する不正な証言を行っているなど、相手方の一連の行動は、民法892条所定の「著しい非行」に該当することが明らかであるとして、原審判を取り消し、推定相続人の廃除を認めました。(大阪高裁平成15年3月27日決定)

引用:大阪遺言・相続ネット

遺言で相続人廃除をする5つの手順

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遺言で相続廃除をする手順は、以下のとおりです。

  1. 遺言で廃除する意思を示す 
  2. 遺言執行者を指定する
  3. 遺言執行者が廃除の申立を行う 
  4. 家庭裁判所で審判手続きが行われる
  5. 遺言執行者が廃除者の届出を行う

遺言による相続廃除を検討している場合は、専門家へ相談することをおすすめします。

1. 遺言で廃除する意思を示す

遺言廃除をするためには、遺言のなかで意志を示しましょう。記載例は下記のとおりです。

  • 遺言者の次男〇〇(昭和○年○月○日)は、遺言者の金品の持ち出しを繰り返した挙句、遺言者に暴力をふるい、令和○年○月○日には全治3カ月の傷害を負わせた。借金を返済しないまま所在不明となり、遺言者に返済を押し付けたため遺言者は不動産を売却せざるを得ない状況に陥った。以上の理由から、遺言者は次男〇〇を推定相続人から廃除する。

廃除の要件に該当する「事実」を具体的に記載し、事実を裏付ける客観的な証拠(請求書や医師の診断書など)を用意しましょう。廃除の対象となる推定相続人から「やっていない」と主張された際、証拠がないと認定が難しくなります。

2. 遺言執行者を指定する

被相続人の死後、遺言に基づき廃除の申立を行う人を「遺言執行者」といいます。廃除の申立は遺言執行者しかできないため、遺言書で遺言執行者を指定することが大切です。

申立や手続きには専門的な知見を要するため、弁護士をはじめとする専門家から遺言執行者を選任することが望ましいです。

3. 遺言執行者が廃除の申立を行う

遺言執行者は、以下を家庭裁判所に提出し廃除の申立を行います。

  • 申立書
  • 被相続人の除籍謄本
  • 廃除したい推定相続人の戸籍謄本
  • 遺言書写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
  • 収入印紙800円分
  • 郵便切手

廃除の申立後、家庭裁判所で審判手続きが行われます。

4. 家庭裁判所で審判手続きを行う

遺言執行者と廃除の対象者間で、廃除事由の存否をめぐり主張・立証がなされます。そのうえで裁判所が事情を総合的に考慮し、廃除を認めるか否かの判断を下します。

5. 遺言執行者が廃除者の届出を行う

裁判所に廃除が認められた場合、10日以内にその旨の届出を行います。遺言執行者が自身の印鑑を持参のうえ、被相続人の戸籍がある市区町村役場に以下の書類を提出します。

  • 推定相続人廃除届
  • 審判書謄本および確定証明書

期間が限られているため、審判手続きが完了次第早めに着手しましょう。

生前に相続人廃除をする2つの手順

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被相続人自らが、生前に廃除を申し立てることもできます。死後に廃除が認められるか不安な方は、生前に手続きを済ませるのも1つの方法です。

廃除者とトラブルになるおそれもあるため、遺言廃除と生前廃除のどちらを選択するかは慎重に検討しましょう。

生前廃除の手順は以下のとおりです。

1. 被相続人が相続廃除の申立を行う

生前廃除の場合は、被相続人本人が家庭裁判所へ相続廃除の申立を行います。被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下を提出しましょう。

  • 相続廃除申立書
  • 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 廃除したい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 800円分の収入印紙
  • 裁判所からの書類郵送費

廃除の申立後、家庭裁判所で審判手続きが行われます。審判の流れは遺言廃除の場合と同様です。

2. 廃除が確定したら廃除者の届出を行う

廃除が認められたあと、10日以内に被相続人の戸籍がある市区町村役場に以下の書類を提出します。

  • 推定相続人廃除届
  • 家庭裁判所による審判書の謄本
  • 審判の確定証明書

届出が完了すると、推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載されます。

相続人廃除における4つの注意点

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相続人廃除における注意点は以下のとおりです。

  1. 遺言廃除は「遺言執行者」を必ず指定する
  2. 相続廃除と相続欠格は異なる 
  3. 相続廃除は取り消しも可能 
  4. 相続廃除が認められるとは限らない

注意点を十分考慮のうえ、準備を進めましょう。

1. 遺言廃除は「遺言執行者」を必ず指定する

遺言で廃除をするためには、遺言執行者が必要です。遺言で遺言執行者が指定されていない場合、相続人が家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立」をしなければ手続きが進みません。

遺産をスムーズに相続させるためには、専門家に依頼しましょう。

2. 相続廃除と相続欠格は異なる

相続廃除と混同しやすい制度として「相続欠格」があります。相続欠格とは、相続に関する不正や犯罪などを働いた人の相続権が、法的に失われる制度のことです。

相続欠格の事由は、民法891条で以下のように定められています。

  • 被相続人が殺害されたことを知りながら告発・告訴しなかった
  • 詐欺や強迫を行い被相続人による遺言書の作成・撤回・取消・変更を操作した、あるいは故意に妨げた

相続廃除と相続欠格の違いは以下のとおりです。

  相続廃除 相続欠格
相続権を失わせる方法 被相続人か遺言執行者が家庭裁判所に申立を行う 自動的に権利を失う
相続人の意思 必要 不要
遺留分 なし なし
取り消し 可能 不可能
代襲相続 適用 適用
戸籍への記載 あり なし

「自動的に」相続権が失われる点が、被相続人の意志にもとづく廃除とは異なります。

3. 相続廃除は取り消しができる

生前に行った相続廃除の手続きを取り消したい場合、家庭裁判所への申し立てが必要となります。手続きの流れは相続廃除とほぼ同様です。生前にも取り消し可能ですが、遺言書に取り消しの旨を記載することも有効です。

4. 相続廃除が認められるとは限らない

2020年に廃除が認められた事例は、申立が行われたうちの2割程度でした。相続廃除は対象者の相続権を失わせる強力な効果があるため、家庭裁判所も慎重に判断します。

廃除が認められない場合の対応も準備しましょう。

参照:裁判所「第3表 家事審判事件の受理,既済,未済手続別事件別件数」

相続廃除が認められなかった裁判例

相続廃除の認定が難しいことを示すものとして、以下の裁判例が挙げられます。

再三にわたって金銭上の問題を起した自己の七男を相続人から廃除する申立てについて、次のように述べ、相手方の行為は相続権を剥奪するに足る「著しい非行」とは認められないとしました。
「推定相続人廃除制度は、特定の推定相続人に法定の廃除事由に該当する非行があり、いわゆる相続的協同関係を害すると評価される場合、その推定相続人の相続権を剥奪し、被相続人の私有財産権と自由意思の尊重に資することを目的としたものである。そして、相続権の剥奪は、推定相続人の利害に及ぼす影響が極めて深刻であり、安易にこれを是認すると、遺留分制度を認めた現行相続法秩序を混乱させるおそれが大であるから、法定廃除事由に該当するか否かを判断するには慎重な考慮を要する。」
「相手方が申立人の孫らを債務者としてサラ金などから借金させ、約束を守らず弁済を怠り迷惑、不利益を与えたことについては、相手方は当然その責任を負わなければならないが、そのことをもって相手方の相続権を剥奪するに足る『著しい非行があった』と認めるのは無理である。なお、申立人は、これまで相手方に多額の金員を与え、宅地を無償で貸与したことなどを強調し、ある程度それらの事実を認めることができるが、それらは親子間の愛情からなされた援助であり、いずれ遺産分割の際に相手方の特別受益として処理されるのは別として、廃除事由該当事実と認めることはできない。」(福島家裁平成元年12月25日審判)

引用:大阪遺言・相続ネット

相続廃除を安易に認めると、遺留分制度を認めた現行相続法の秩序を混乱させるおそれがあります。そのため裁判所は、客観的かつ社会通念に照らしたうえで慎重に判断を行います。

まとめ

この記事では、相続廃除の条件や効果、手続きの流れを解説しました。相続廃除は非常に強力な効果をもつため、根拠に乏しい感情的な理由のみで相続人の相続権を奪うことはできません。

相続廃除を認められやすくする方法、認められなかった場合の対応を検討するためには、専門家への相談が不可欠です。

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監修者のコメント
竹中啓倫税理士事務所
税理士・米国税理士・認定心理士 竹中啓倫

岐阜県出身。上場会社の経理に勤務する傍ら、竹中啓倫税理士事務所の代表を務める。M&Aなどの事業再編を得意とし、セミナーや研修会講師にも数多くあたるほか、医療分野にも造詣が深く、自ら心理カウンセラーとして、心の悩みにも答えている。税理士会の会務では、名古屋税理士協同組合理事を務める。

私の実務の中で、相続人廃除の手続きを取ったこともありませんし、私の周りで認められた実例を見たこともありません。相続人廃除の効果は、相続人に相続財産を一切引き継ぐことができる、強力な制裁になります。遡って相続人としての権利をはく奪するほどの協力な規定であり、その発動には厳格な要件が必要でしょう。

今回の記事でも、その発動には高いハードルが設定されており、また被相続人の意思によって撤回可能であり、運用上も十分検討されておりますので、問題はありませんが、私が一番懸念しているのは、相続人廃除を行えば相続人から実質廃除することができる、と安易に考えて行動することはやめてください。相続人としての権利に制限を加えるには、それ相応な理由が必要なことを、覚えておいてください。
比較ビズ編集部
執筆者

比較ビズ編集部では、BtoB向けに様々な業種の発注に役立つ情報を発信。「発注先の選び方を知りたい」「外注する際の費用相場を知りたい」といった疑問を編集部のメンバーが分かりやすく解説しています。

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